世論調査が安倍氏、前原氏、小池氏を決断させ動かした

井田正道明治大学政治経済学部教授による世論調査の見方(その1)@明治大学リバティアカデミー

去る10月22日に投開票が行われた第48回衆議院議員総選挙は、自民、公明両党が圧勝し、立憲民主党が野党第一党となり、希望の党、共産党、日本維新の会は公示前議席を下回る結果となった。投票率は53.68%で戦後2番目に低かった。ちょうどこの衆院選と同時期に、明治大学リバティアカデミーでは、「調査・予測は何を当て、何を外すのか?」と題した公開講座が行われていた。衆院選公示日に開催された第1回テーマは「世論調査の展開と現在」。選挙後だからこそレポートできるその内容とは。

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「世論調査の展開と現在」を講義する明治大学政治経済学部の井田正道教授

去る10月22日に投開票が行われた第48回衆議院議員総選挙は、自民、公明両党が圧勝し、立憲民主党が野党第一党となり、希望の党、共産党、日本維新の会は公示前議席を下回る結果となった。投票率は53.68%で戦後2番目に低かった。ちょうどこの衆院選と同時期に、明治大学リバティアカデミーでは、「調査・予測は何を当て、何を外すのか?」と題した公開講座が行われていた。衆院選公示日に開催された第1回テーマは「世論調査の展開と現在」。選挙後だからこそレポートできるその内容とは。

今回の解散総選挙の契機となったのは世論調査

「世論調査の展開と現在」の講師を務めたのは、明治大学政治経済学部教授(政治学)の井田正道先生。井田先生は開口一番、

「現代の政治は〈世論調査政治〉といわれています。今回の衆院選も、大方の見方では、7月に内閣支持率が落ちたことと北朝鮮のミサイル発射等の要因から年内解散はないのではと思われていましたが、安倍首相が解散を決断したその陰には、9月初めの自民党独自の世論調査がありました」と語った。

井田先生によれば、9月初めに行われた自民党の世論調査では、当時の現有議席288議席から10ないしは15議席減る程度に留まりそうだという結果が出たという。実際、今回の衆院選では、追加公認した無所属3人を加えて自民党は284議席となっている。

「ここで選挙を先延ばしすれば、北朝鮮情勢は不透明であるし、小池百合子東京都知事には去る7月2日投開票が行われた都議会議員選挙で痛い目にあっているだけに小池新党がしっかりしてくればどうなるかわからない、新党が固まる前に選挙をやってしまおう、勝てる時に解散を打とう、ということで解散に踏み切ったのです」(井田先生。以下「 」内同)

民進党の希望の党合流の判断の裏にも世論調査

ところが、誰にとっても想定外の事態が起こる。解散(9月28日)直前に小池氏がリセットして新しい政党「希望の党」を結成すると発表、さらに解散当日には民進党と合流をすることが明らかとなり、その翌日にあの「排除いたします」発言が出た。

「新政党ができるだけならまだしも、前原誠司民進党代表(当時。10月31日辞任)が民進党から候補者を出さない、合流すると言ったことは、自民党にはまったくの想定外でした。現代の政治状況はそれほどに予測の難しい状況に来ています」

この前原氏の合流決断にもまた、世論調査の結果が影響していた。

「民進党も9月中旬に世論調査をしています。民進党のその時点での議席数は88くらい。世論調査では10~20議席くらい増えるという結果が出たといいます。自民党の9月末の調査で10~15議席減、民進党の9月中旬の調査で10~20議席増。両調査は基本的には一致していたといえます。

9月中旬の時点では、新政党は「希望の党」ではなくいわゆる「若狭新党」(小池氏の“側近”、若狭勝氏を代表とした政党)で、せいぜい50人くらいしか候補者を立てられないという話でした。民進党も「若狭新党」はそれくらいの規模だと想定して世論調査をしたんです。ところがいざ解散となって小池氏が党首になると、過半数立てるという話になってきた。9月中旬の世論調査の時点では100くらいはいくかと思われた民進党の議席も、「希望の党」という小池新党ができてしまえばおそらく50くらいまで減るだろう、そうなると野党第一党ではなくなる、背に腹は代えられない、前原代表はそういう思いで合流した、というようなことを言っています。ここでも世論調査の数字が判断の元になっています」

小池都知事の出馬不出馬の陰にも世論調査

今回の衆院選で最もメディアを賑わせた話題は小池都知事の出馬問題だった。この決断にも世論調査が関係していると思われる。

「今回の選挙前から話題になっていたのは、小池都知事が出馬するのかどうか、でした。公示直前になって、最初から出ないと言っていたと語っていましたが、最初の頃は出るとも出ないとも言ってなかった。含みを持たせたんですね。ところが世論調査で、小池都知事が都知事を辞めることにかなり批判が多かった。最初は7割くらいでしたが、公示直前にはそれ以上になりました。

また、希望の党結成直後から民進党を合併した頃までは、かなり議席を取りそうだという観測が流れて、場合によっては政権交代かという見方もありましたが、10月第1週あたりから流れが変わり始め、希望の党に対する批判が目立つようになってきたんですね。読売新聞の世論調査では、希望の党に投票するという人が7ポイント落ちました。他の調査でも下がっています。

じつは選挙前の調査というのは、数字の多い少ないより、上り基調か下り基調かがものすごく大事です。下り基調になってしまうと、これはもう退潮傾向にあってあまり取れないな、という見方になります。自民党も最初は焦りましたが、公示直前には、希望の党はもう勢いはない、自公は議席を多少減らすかもしれないが大丈夫だろう、という余裕に変わってきたのです。

このように、解散を決断した安倍首相の判断、民進党を事実上解党した前原代表の判断、そして今回の選挙に出馬しなかった小池都知事の判断、いずれも、判断材料の一つは世論調査だったと考えられます」

 世論調査は自民党のお家芸

〈世論調査政治〉は今回の衆院選に限った話ではない。その象徴的存在が小泉純一郎元首相だった。

「小泉政治を表す言葉こそが〈世論調査政治〉。さまざまな政治判断を世論調査に基づいて行いました。たとえば2005年の郵政解散も、その前に世論調査をしていたという話があります。やれば勝ち目があるとの結果が出て解散したと。

また、自民党の某代議士から聞いた話ですが、自民党のお家芸は世論調査である、と。2009年の第45回衆院選で自民党は119議席しか取れず民主党(当時)に惨敗し政権交代が起きるのですが、自民党の世論調査では120議席と出ていたといいます。たった1議席しか違わなかった。これだけ正確な世論調査ができているのです」

次回は、こうした世論調査の仕組みと必要なサンプル数について掲載する。

(続く)

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取材・文/まなナビ編集室(土肥元子)

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