生命科学①死はどう決まるのか/死の遺伝子からの問いかけ
神楽坂/森戸記念館
田沼靖一
講義詳細
私たちの身体を構成している体細胞は、血液細胞や肝細胞、腎細胞のように新陳代謝によって新しい細胞に置き替わる再生系の細胞と、神経細胞や心筋細胞のように生まれてから何十年もの間、高度な機能を果し続けて、ほとんど置き替わることのない非再生系の細胞に便宜的に分けることができます。再生系の細胞は、個々の特殊な機能を果たしているうちに老化し、自ら死を決めて実行していきます。この細胞死は、「アポトーシス(apoptosis、自死)」と呼ばれ、生命を維持していく上で不可欠な細胞死です。つまり、アポトーシスは、老化して不要になった細胞や、ウイルスなどに感染して異常をきたして有害となる細胞を排除するという重要な役割を果たしているのです。しかし、再生系の細胞といっても、増殖と死を無限に繰り返すことはできず、その回数に限界があります。一方、非再生系の細胞も、永遠に生き続けることはできず、その高度な機能を果たせる時間に限界があり、耐用年数がくると細胞死を起こします。この細胞死は、個体の死に直結してくることから、アポトーシスとは意味合いが異なります。そこで、この細胞死を、「アポビオーシス(apobiosis、寿死)」と名付けて区別しています。私たちの身体の中には、アポトーシスによる回数券的な細胞死と、アポビオーシスによる定期券的な細胞死が、遺伝子として二重にプログラムされているのです。そして、そのどちらかを使い果たしてしまうと、個体としての死が訪れるようになっているのです。
21世紀は、遺伝子を基点として死生観、生命観を考える時代になって来ています。「死の遺伝子」は、自分とは何か、アイデンティティを追求できる、つまり「問うことができる」、そして、一人ひとりの一生に何か求められていることがある、つまり「問われている」、ということを問いかけているような気がします。そう考えると、「死」は、無時間性の「無」に還っていくことに他ならないのでしょうが、やはり、前提であると同時に、生の在り様の大切さを教えてくれる、永遠に繋がる存在なのだと思います。本講座では、死のメカニズムから、死のある意味を考えてみたいと思います。
東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了。帝京大学薬学部助手、講師。米国立衛生研究所/癌研究所(NIH/NCI)留学。東京工業大学生命理工学部助教授。1992年本学薬学部教授。2011年同学部長。アポトーシス学会会長。
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