メディアが「危険報道」を重視するには理由がある
テレビや新聞を見ると、いつも気が滅入るような嫌な話ばかり。こう感じることはないだろうか。それもそのはず、つい悪いニュースばかりを報じてしまうのがマスメディアの特性だからだ。
「マスコミの人たちは、いい話ではなく、悪いニュースこそ伝えなければと考えています。たとえば、振り込み詐欺や連続放火、食品偽装の問題など、警告を発したり注意喚起したりする意味で、悪いことほど伝えるのが使命だと思っている。つまり、『危険報道』にはニュースバリューがあるが、『安全報道』にはインパクトがないと見なされているわけです」
と北野先生はメディア側の本音を解説する。
「危険報道」より危険な「安全報道」
さらにメディア企業にとって、安全報道は危険報道よりリスクが大きいという事情がある。
「安全や無害を100%証明することは不可能です。安全と報道しておきながら危険が見つかった場合、メディアが責任を問われることになりかねません」(北野先生。以下、「 」内同)
マスコミが読者や視聴者によかれと思って報道しているとしても、情報の受け手としては、それを真に受けるわけにはいかない。真に客観報道などあり得ないからだ。同じ話題を伝えるにも、どういう切り口にするかでまったく別のニュースになり得る。
「そもそもニュースに取り上げるかどうかさえ、記者やデスクの主観により大きく左右される。ニュースは恣意的に作られていることを知るべきです。 また、多くの人に伝えようとするとするほど、わかりやすさが優先されます。その場合、善悪二元論など、単純化して伝えることになりがちで、正確さとの両立はきわめて難しいのが実情です」
フェイクにだまされない処世術
では、情報の受け手としての私たちは、日々どんなことに気をつけてメディアと付き合えばいいのか。北野先生のアドバイスから2つのポイントを紹介する。
(1)「大学教授」の言うことを鵜呑みにしない。
何より大事なことは、情報源を確認することだ。いったい誰の意見や発言を根拠にしてニュースが作られているのかに注目してみよう。
「その際に注意したいのは、『大学教授』『博士』などの肩書きを持った人でも、専門外の分野に関しては素人同然だということ。たとえば私は化学物質のことならわかりますが、地震について聞かれても答えようがありません」と北野先生は明かす。
いわゆる「識者」がコメンテイターとしてメディアに登場するのをよく見かけるが、その人が専門的な知見を元に語っているのか、さほど詳しくもない分野について感想を述べているに過ぎないのか、しっかり見極める必要がある。
(2)「エセ科学」にだまされない。
「◯◯を食べればダイエットもラクラク!」といった情報に踊らされた経験のある人もいるだろう。メディア企業としては、雑誌の部数やテレビの視聴率をかせぐため、「◯◯が効く」「◯◯は危険!」といった単純化された情報で、注意を引こうとする傾向がある。
こうした「エセ科学」にだまされないためのヒントとして、北野先生のアドバイスは「発表された『場』に注目すること」だという。
「たとえば学術論文であれば、必ずレフェリー(査読者)がいるため、ある程度は信頼性できます」。
学術論文を直接目にする機会が少ない場合も、学術的な裏付けのあるニュースかどうか、情報源をチェックすることはできるだろう。
転載につぐ転載が珍しくないネットの情報があふれている今こそ、自衛策として、こうした情報源に対するアンテナをきちんと張っておきたい。フェイクニュースに踊らされて最終的にバカを見るのは自分自身だ。
〔講師の今日イチ〕ネット時代の今だからこそ新聞を読もう。最低でも2紙に目を通せばニュースを見る目が変わります。
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文/小島和子 写真/小島和子(講義風景)、(c)stockWERK / fotolia