ペーパードリップは中細挽きコーヒー12g、92℃~96度の熱湯180CC
「ブラジルの香料・香辛料 コーヒーのおいしい淹れ方、飲み方」講座(東京農大オープンカレッジ)は、コーヒーについての知識を学ぶだけでなく、実際に自分たちでコーヒーを淹れて飲み比べることができる、人気の体験講座。講師の一人、菅野匡範先生(53才)は、UCC上島珈琲の営業統括本部課長で、コーヒーの開発や飲食店の業態開発等の仕事に携わり、社内外のコーヒープロジェクトを担当するコーヒーの伝道師だ。
コーヒーの抽出法は、大きく分けて2種類。ペーパードリップなどに代表される透過法(=濾過)と、フレンチプレスやサイフォンに代表される浸漬(しんし)法(=漬け込み)があり、この講座では、家庭で一般的に使われる、ペーパードリップとフレンチプレスでの淹れ方を受講・体験できる。座学の講義室とは違い、まるで理科の実験室のような小さい部屋の中央に机を寄せて、10名の受講生がぐるりと囲む。机の上には、コーヒー粉やドリッパーのほか、ピカピカのコーヒー用ケトル、サーバー、電子スケールなどの器具がずらりと並び、理科の実験のよう。
まずは、日本人にもっともなじみがあり、使用者が多いペーパードリップ法からスタート。ペーパードリップで1人分を淹れる場合、ペーパーフィルターに中細挽きコーヒー粉12gをセットし、180㏄の熱湯を注ぎ、160㏄のコーヒーができ上がるという。
ちなみに、コーヒーを淹れるのに適した湯温は92~96℃。温度計も必要?と思いきや、菅野先生が家庭で簡単に湯温を見極める方法を教えてくれた。水の沸点は100℃だから、ボコボコと沸騰した時点が100℃。火を止め、ボコボコがおさまったら約96℃。この雑学、コーヒー以外にも役立ちそう。
ペーパードリップは“蒸らし”の後3回に分けて注ぐ
菅野先生が理想的なペーパードリップ抽出法を教えてくれた。
(1)コーヒー粉の中心に、20㏄の湯を静かに注ぎ、20秒蒸らす。
(2)中央に、1円玉ぐらいの“の”の字を描くように80㏄の湯をやさしく注ぐ。
(3)1/3程度減ったら、同様に40㏄注ぐ。
(4)同様に20㏄注ぎ、湯が落ちたらでき上がり。
「この淹れ方でポイントとなるのが次の3つです。
〇蒸らし
〇注湯
〇ペーパーフィルターに直接お湯をかけてはいけない
なかでも、もっとも重要なのが“蒸らし”です。フレンチプレスも同様で、十分に蒸らさずに淹れるとコーヒーのなかに閉じ込められたうま味や風味は出ないまま。大変もったいないです」(菅野先生。以下「 」内同)
最初の20秒の蒸らしでコーヒーの準備が整い、3回に分けて湯を注ぐ三湯式にすることでペーパーフィルターの中のコーヒーの粉の層が厚くなり、コーヒー自体がフィルターの役目をしてコーヒーの雑味をドリッパー内に残してくれる。つまりクリアなコーヒーが抽出できるのだ。「お湯はできるだけ細く、やさしく注ぐことが大切」だという。
一気にお湯を注ぐと薄くて雑味の多い味に
一気にお湯を注ぐと、コーヒーの粉の層は薄くなり、本来はカップに入ってほしくない雑味も一緒に抽出されてしまいます。また、蒸らしが無いことで、薄いコーヒーが抽出されてしまうという。
実際に先生が理想的な淹れ方とダメな淹れ方を目の前でデモンストレーションしてくれる。淹れたものを飲み比べ舌で違いを感じると、モチベーションもますますアップ。受講生もコーヒー12gをはかるのにスケールに鼻先をくっつけんばかり。
フレンチプレスは中細挽きコーヒー18g、92℃~96度の熱湯350CC
ペーパードリップの次に実習するのが、フレンチプレス。ブランジャーとも呼ばれるビーカー形のポットにコーヒー粉と湯を注ぎ、コーヒー粉だけをネットで下にプレスして押し込め、コーヒーを抽出する。フレンチプレスの場合は1~2人分で、中細挽きコーヒー粉18gを入れ、350㏄の湯を注ぎ、330㏄のコーヒーができ上がる。
フレンチプレスは2回に分けて注ぐ
初心者でもおいしく入れられるフレンチプレスの抽出法を教えてもらった。
(1)コーヒー粉をフレンチプレスに入れる。
(2)熱湯を注ぎ始めるのと同時に、タイマーを4分にセットしてはかりはじめる。一湯目は半分ぐらいまで注ぐ。
(3)注ぎ始めから20秒が経過したら、二湯目。上から1.5㎝ぐらいのところまで注いだら蓋をのせ、セットした4分になったらプレスしてでき上がり。
一湯目のあとの20秒が、大切な“蒸らし”。ここさえ押さえれば、あとは一気に注いで待つだけだから、ペーパードリップのように細かい作業がなく、初心者でも失敗なく淹れられるのがメリットだ。
ペーパードリップとフレンチプレスは味わいが違う
「ペーパードリップが、コーヒーの雑味を取ってコーヒーのうま味だけを抽出するのに対し、フレンチプレスはそのコーヒーが持つ風味が全てダイレクトに出ます。欧米に比べ日本は、素材のおいしいところだけを取り出す“だし文化”がある為か、ペーパードリップの方が好まれる傾向がありますね。同じコーヒー豆で飲み比べてみると、違いがはっきりわかっておもしろいですよ」
確かに、ペーパードリップはすっきりとして雑味がなく、色も透明感がある。一方、フレンチプレスのほうは、濃厚な味わいでにごりがあり、表面にうっすら油が浮いている。フレンチプレスのほうが手順が少ないので、記者のように雑な性格の人には合っていそうだ。
最後に、菅野先生から一言。
「同じコーヒー豆を、同じように淹れているはずなのに、なぜか毎日コーヒーの味が違うんです、という質問をいただくことがあります。もちろん体調などもありますが、つまるところ同じように淹れていないからです。きちんと豆と水を測って、手順を守れば、いつでもおいしいコーヒーが淹れられます」
本講座で、淹れ方以外に注目を集めたのが、電子スケールとケトル。電子スケールは、一見ごく普通の四角いタイプなのだが、よく見ると重さと同時に抽出時間もはかれるよう、タイマーがついている。
また、ケトルは注ぎ口が本体の下のほうからスワンの首のようにS字型に細長く伸びているタイプで、絶妙に安定した細さで狙いピッタリの場所に湯が注げる。菅野先生によれば、「ここまで精密な注ぎ口は、日本でしか作れないんです。金物の町、新潟の燕三条の職人さんが1個1個手で打ち出して作る、本物のハンドメイド。世界中のコーヒーのプロが使っているんですよ」とのこと。
絶対に毎日同じコーヒーを!という方は、こうしたプロ用の道具を導入するのもよいだろう。
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文・写真/まなナビ編集室