職場で評価されず家では邪魔者、“居場所”ある?

SDGs(持続可能な開発目標)-貧困・社会的排除と居場所論(その1)@上智大学

物があふれ、これ以上欲しいものがない現代、皆が探しているものがある。それが“居場所”だ。上智大学の田中治彦教授による「貧困・社会的排除と居場所論」講座は、なぜ日本人が居場所を求めるようになったのか、そもそも人にとって居場所とは何かを知る、絶好の機会となった。

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居場所論の講座は若い人も多い

物があふれ、これ以上欲しいものがない現代、皆が探しているものがある。それが“居場所”だ。上智大学の田中治彦教授による「貧困・社会的排除と居場所論」講座は、なぜ日本人が居場所を求めるようになったのか、そもそも人にとって居場所とは何かを知る、絶好の機会となった。

職場で評価されない、家庭で邪魔者扱い

居場所がない

この言葉の意味するものは多様だ。文字通りスペースがないこともさすだろうが、「職場に居場所がない」といえば、仕事がないとか評価されていないとかの意味になる。「家庭に居場所がない」といえば、邪魔者扱いされているとか疎まれているといった状況をさす。つまり人にとって “居場所”とは、自分がそこにいる価値を感じられる場所だ。

ではなぜ現代は  “居場所” のない時代になってしまったのか。居場所という言葉がはやり始めたのは1990年代からだが、転換期は1980年中頃だったと、田中先生は言う。

それは “集団” に大きな意義を感じていた時代と、意義が失われつつある時代との転換点ともいえる。たとえばボーイスカウトの会員登録数は1980年代に頭打ちになり、そこから減少に転じている。それまで人が漠然と抱いてきた、集団の中で切磋琢磨されてこそ人は磨かれるのだという考え方が大きく変化した時期である。

田中先生は語る。

「それまでの日本社会には “” がありました。国は成長を続け、給料は上がりつづける。人々が見ている成長の方向性もはっきりしていて、会社などの団体に所属して終身雇用制度の中で頑張ることが “成功” であり “安心” でした。自分の成長と社会の発展がパラレルだったのです」

それが転換したのが1980年代だ。個人の幸福や個人の自由が標榜される一方で、どう自由に生きたらよいのかと悩む人も増えていく。モラトリアムという言葉が流行語になったのもこの頃だった。1983年に任天堂からファミリーコンピュータ(ファミコン)が発売され、ファミコン・ブームが到来したのは、暗示的ともいえる。経済的にはちょうどバブル期にあたり、経済や雇用の本格的低迷=失われた20年が始まるのは1990年代に入ってからとなる。

“登校拒否”から“不登校”へ

“居場所” という言葉が公文書の中に使われた最初の例は、1992年に旧文部省がまとめた不登校対策の報告書だったという。それまで使われていた “登校拒否” という言葉は、この報告書をもって、“不登校” という言葉に変わった。

“登校拒否” から “不登校” に言い方が変わったのは、子供が学校に来られないのは親や子に問題があるからだとする考え方から、学校や社会にも責任があるとする考え方へ大きく転換したからだ。そして、この報告書の中で使われたフレーズが、「誰にでも居場所がある学校づくり」だった。

新しい言葉は、新しい概念を生む。おそらく人々は気づいたのだろう、私にも “居場所” がないのではないか、と。

「1990年代までは学校でも会社でも、先輩たちの活躍する姿を見れば、1年先、5年先、10年先の自分の将来像がおぼろげながらにも分かったのです。ところが、社会がどう進むのかが予測できなくなると、自分たちがどこに向かったらいいのかも分からなくなりました。徐々に会社の終身雇用制度も崩壊していき、人々は自分に “居場所” がないことに気づき始めたのです」(田中先生、以下「 」内同)

つまり、“居場所”には、将来を見通せるかどうかという時間的要素も加わってくる。

10年後の自分が想像できるか

田中先生は “居場所” は次の3つの要素を含むという。

空間:単なるスペースではなく、リラックスできる空間をいう。そのためには次の “関係性” の要素が大切だ。
関係性:リラックスできる空間とするため、安心できる人間関係があるかが大事。
時間軸:自分の将来が展望できるかどうか。若い人は10年後の自分が想像できるかどうか。中高年であれば定年後の自分が想像できるかどうか。

あなたは、上の条件を満たした “居場所” を持っているだろうか。田中先生は、持続性ある社会を作るためには、居場所を作ることが大切になってくるという。なぜなら居場所は、貧困や社会的排除から逃れるために必要なものだからだ。その話は別記事「ピコ太郎の国連登場で話題の“SDGs”って一体なんなのか」に記そう。

 

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取材講座:「SDGs(持続可能な開発目標)-貧困・社会的排除と居場所論」(上智大学公開講座)
文・写真/奈良 巧

 

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