Q(受講生) グローバリズムが世界の均一化を進めるとしたら、それによって生活レベルが上がる人もいれば、下がる人もいて、それもまた摩擦の原因になります。逆に、老子が言った「小国寡民(小さくて住民の少ない国)」の方がいいという考えもあるはず。果たして進歩すること、拡大を目指すことは良いことなのでしょうか?
A(湯沢先生)今の時代、情報から隔絶されて生きていくことはとても難しいと思います。仮にそういう暮らしをしている人がいても、一歩外に出て、もっといいモノがある、もっとおいしいものがあると知ったら、自分たちもそういう生活をしたいと思うのが自然ではないでしょうか。
グローバリズムには良い面と悪い面があります。たとえば民主主義について、第二次大戦後にイギリスの元首相チャーチルが『民主主義は最悪だが、それに代わるものがないからしょうがない』というようなことを言っていますが、グローバリズムもまさに同じ。絶対的に正しいわけではないけれど、それに代わるものがまだ見つからない。だから人間が試行錯誤しながら見つけていくしかないのです。
Q(受講生) グローバリズムによって富が偏在し、格差が広がるということですが、何か打てる手はないのでしょうか?
A(湯沢先生) 歴史の中で見れば、第2次世界大戦後、ヨーロッパで福祉国家を目指そうという動きが生まれました。社会福祉を手厚くし、所得のアンバランスを国がコントロールしようというものです。イギリスでも社会民主主義的な政策が展開され、多くの国有企業が生まれました。しかしその後、ソ連の解体と時を同じくして、国有企業は効率的でないということで、サッチャー政権のときに消えて行きました。
今はIMF(=International Monetary Fund 国際通貨基金)やWTO(=World Trade Organization)のような各国の経済を安定させるための国際機関がありますが、各国の経済の立て直しを支援するだけで、福祉などの部分までは目が行き渡っていないのが実情です。ひとつの可能性として、米国のトランプ大統領が「所得の格差をなくすため、私は税金をたくさん払う」と宣言すれば支持率も上がると思うのですが、どうもそういう方向には行きそうにないですね(笑)。
Q(受講生) 技術は発展し、蓄積されます。しかし一方で人間は、オギャーと産まれた瞬間から文字が読めるわけではない。つまり人間は進歩していません。そんな人間がグローバリズムからコスモポリタニズムに進歩できるのでしょうか?
A(湯沢先生) まさにそこが問題で、技術や経済がどんなに発展しても、人間だけが昔と同じことをやっている。そこを乗り越えるためには、やはり教育が進歩するしかないと思っています。そして私たち個人も、フェイク・ファクト(偽の事実)に惑わされないよう、絶えず勉強していくしかないと思います。
Q(受講生) “世界で一番貧しい大統領”と言われるウルグアイのホセ・ムヒカ大統領は「人間は幸せになるために生まれてきた」と言っていますが、先生が考える幸せとは?
A(湯沢先生)「個々人の幸福を一律に決めることはできませんし、やはり『個人そのものを尊重する』しかないと思います。人間には生まれつき価値があると認めるところからスタートしないと、社会は成り立たないし、そういう社会が幸せな社会なのだと思います。
自分と違う他者を認めない、だから排除するというのは、まさにテロリズムの思想ではないでしょうか。
*秋に湯沢威先生による4回シリーズのグローバリズム講座も開催予定。
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文/小野千賀子 写真/小野千賀子(講座風景)、(c)olly / fotolia