風の影響に偏りのない直立した木の年輪は、東西南北同じ広さ
「年輪は南側の間隔が広くなると信じている人はいませんか? あれはとんでもない間違いなんです。では年輪に、広い狭いの差が出るのはどうしてか。針葉樹の場合は、山の斜面で谷側に向いているほうが、山側よりも年輪が広くなるからです」
講師の堀大才先生の説明に、教室内にざわめきがさざ波のように広がる。「なぜ、谷側……」というつぶやきも聞こえてくる。ここは東京農業大学の世田谷キャンパスで開催されているオープンカレッジ「樹木の形を読みとく」。樹木の形から、わたしたちが知っているようで知らない木の不思議で面白い性質を学ぼうという講座だ。堀先生はNPO法人樹木生態研究会代表でもある、樹木のプロ中のプロだ。
「荷重がたくさんかかる側の年輪が広くなるんです。では斜面に立っている木は、どちらに枝を伸ばしますか? 山側は上にある木の枝で余地がない。すると木は谷側に枝を伸ばして葉を茂らせる。だから1本の木の中でも谷側のほうに重心が偏り、針葉樹の場合は、それを支えるために、谷側に根が発達します。枝に偏りのない直立した木であれば、年輪の東西南北はだいたいどの方向も同じ広さです」(堀先生、以下「」内同)
こうして聞くと小学生でも理解できそうな明快な論理だが、ではなぜ「南側が広い」などといった俗説が生まれてしまったのか。
じつは、年輪は南側が広いというのは、何の根拠もないわけではないという。人間は南向きの斜面で活動することが多い。南向きの斜面に畑を作ったり、小屋を建てたり、ハイキングをしたり、休憩したりする。つまり人間にとっての谷側は南側であることが多い。それで、本当は“谷側が広い”なのに、“南側が広い”と勘違いしてしまったのだという。しかしこれはあくまでも針葉樹の場合の話だという。
庭木や公園の木の枝ぶりに目を留めることはあっても、山の斜面に群生している木の一本一本を意識することはあまりない。堀先生の説明を聞いていると、杉やヒノキの枝一本一本が、人間の手足のように思えてくる。
堀先生はさらに、斜面に生えている木を見るときは、根にも注目してほしいという。広葉樹と針葉樹で斜面での根の張り方が違うというのだ。