イルカとクジラの違いは
アニメ・マンガ・ゲームなど世界が認める日本文化もあれば、一方でいわれなき非難を浴びる日本文化がある。それがクジラ・イルカをめぐる騒動だ。
2009年に公開され、第82回アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した映画『ザ・コーヴ』(The cove)は、まさにこの問題を世界的規模に拡大した。この映画は和歌山県太地町のイルカの追い込み漁をきわめて批判的に描いたもので、日本国内では公開の是非や表現の自由をめぐって大変な論議を巻き起こした。
紀行ライターとして活躍する講師のカベルナリア吉田先生は、早稲田大学エクステンションセンター講座「ニュースの街を歩く」で、この問題を取り上げた。その趣旨について、吉田先生はこう語る。
「日本人はとにかくニュースにすぐ反応しやすいし、鵜呑みにしやすいのです。報道されるとそれが真実かと思ってしまう。そのために現場に行くこともないまま、隔たったイメージを抱いてしまうのです。今回はイルカを取り上げますが、この講座では、こうした世論に警鐘を鳴らしつつ、自分の目で見たもの以外は簡単に信じないようにしよう、ということを伝えたい。僕も、この講座で自分の目で見たものをしっかりと伝えていくつもりです」
では、その現場となった太地町について語る前に、基本となるイルカとクジラの違いについて、押さえておこう。
イルカとクジラの違いだが、大きさで名称が変わるだけである。約4m以下がイルカで、それ以上がクジラ。ただし、ゴンドウクジラなどは体長が2~5mなので、大きさによってはイルカと呼ばれることもあるそうだ。意外といい加減なネーミングである。よってこの講座の中では、特にクジラとイルカを区別せずに話が進んだ。
アメリカは油とヒゲを採取するために捕鯨を
あなたはクジラを食べたことがありますか? 昭和40年代生まれまではクジラの竜田揚げを給食で食したことがあるはずだ。懐かしい、うまかった、という人もいれば、黒くて硬くて臭かったという人もいる。記者は後者で、いつの間にかクジラが給食から消えていっても何とも思わなかった。それはクジラを食べる習慣のない海なし県出身だったからかもしれない。
講座では、捕鯨の歴史と、捕鯨がだんだんと縮小されていく過程が紹介された。吉田先生は語る。
「日本だけではなく、グリーンランド、カナダ、アラスカなど北米の先住民族はかなり昔からクジラを食べていました。そしてアメリカは、食べるためではなく、油とヒゲの採取のために(その他の部位は破棄)捕鯨で世界を支配し、莫大な富を得ていたんです。しかし、1859年にペンシルバニア州で石油が発見されると、クジラ油の需要は低下します。さらにノルウェーが捕鯨砲を開発したことで技術競争で負け、1925年にアメリカの捕鯨は終焉を迎えました」
1948年には国際捕鯨委員会(IWC)が設立され、1951年に日本も加盟する。1980年代に入ると、商業捕鯨の中止や大型クジラの沿岸捕鯨の中止などが相次ぐ。なるほど、給食でクジラが出なくなった頃だ。
大西洋で最も早く減少したのはシロナガスクジラで、絶滅危惧種に指定されている。そのほかに、ニタリクジラ、マッコウクジラなど13種類がIWCの管轄下にあり、捕獲が制限または禁止されているという。
「小形のツチクジラ、ゴンドウクジラはIWCの管轄外です。太地町で捕獲しているのはこれらのクジラやイルカで、IWCはもちろん、国や県が決めたルールに従って行われています」(吉田先生、以下「」内同)
ではいったいなにが問題なのか。そのきっかけとなったのが『ザ・コーヴ』だった。