タンスにしまっていた素敵なコートや革ジャン
文化服装学院の講座『からだの不自由な人に大切な“装いの工夫”』──かなり専門性の高い内容だろうかと想像していると、講師の岩波君代先生がこんな話をしてくれた。
「私の知人に、生まれた時から脳性まひという障害をもつとても頭脳明晰な60代の女性がいます。彼女のように動きが不自由で服の着脱が難しい人は、たいてい本来よりかなり大きなサイズの服を着るので、着崩れてきれいに見えないんです。それは仕方がないと思うのが一般的だと思います。でも彼女は素敵な服を着たいと思って、ほぼジャストサイズのブランド物のコートや革ジャン、ブラウスなどたくさんの服を買ってタンスにしまっていました。頭の中でコーディネイトを楽しんでいたのかも。そしてある日、その何着かを持って私とヘルパーさんを伴い、リフォーム屋さんを訪ねたのです。
ヘルパーさんは当初、既製服を直して着るなんて無理だとか費用が高いとかブツブツ(笑)。でも要は、袖入れしにくい部分を開閉できるようにしたり、服地を足したりすればいいんです。技術的なところを私が説明してリフォーム屋さんに伝えたら、店員さんがとてもいい方で、知人のことも服の直し方もよく理解してくださり、後日、知人が恋い焦がれて買った服が見事にリフォームされて楽に着られたのです! そのときの彼女の喜びよう、そしてヘルパーさんの驚きようといったら……。今では彼女、ヘルパーさんと2人、そのリフォーム屋さんや、近所のリフォーム屋さんをみつけて足繁く通っているようです」
今日選んで着る服は今日の自分の表現
「好きな服を着られたとき、天にも昇るような気持ちになる。人間ってちょっとしたことで変わるもので、特にからだに不自由のある人たちは、それだけで外に出て行ったり社会参加したくなるんです」という岩波先生。
障害の有無に関わらず、好きな服を着ることで“天にも昇るような”嬉しい気持ちになるのはよくわかる。今日選んで着る服は今日の自分の表現。今はそんな時代だ。