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左は70歳、右は11歳。60歳差の試合シーン
「じつはスポーツは、大学時代にテニスをちょっとやったくらいで、それ以来ほとんどやってこなかったんですよ」と話し始めた太田政彦さん。いい感じに使い込んだフェンシングのフル装備がきりりと決まり、ひときわ目を引くそのお姿は、とてもそうは見えない。
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初心者でもOKといううたい文句と、防具のかっこよさにひと目惚れ
ここ、中央大学クレセントアカデミーのフェンシング講座「楽しく学ぶフェンシング」は、7才から70才までが集うと聞いてはいたけれど、現実にそのお姿を拝見しなければ、なかなか信じられないだろう。
──フェンシングを始めたきっかけは?
「70歳を目前にして、健康のためになにかやりたいなと思い立って、はじめは剣道を習うつもりでいたんです。ところが、妻がたまたま中央大学の講座のパンフレットをもらってきて、『剣道じゃないけど、フェンシングがあるわよ』って。
フェンシングなんて、オリンピックとかでしか見たことがなかったから、ズブの素人が、しかも68才からはじめられるとは思いもしなかったんですけど。けれど、初心者でもOKといううたい文句と、防具のかっこよさにひと目惚れしてしまったんですね(笑)。
剣道の防具はつけるのも外すのもひと苦労だし、重い。一方、フェンシングのほうは防弾ジャケットにも使われるハイテク生地でできていて、軽くて動きやすいうえに、洗うのも簡単。臭くならないわけです(笑)。
「これはもう、フェンシングしかない、と」
倍の値段の道具に買い替え
フェンシングの道具は、剣、マスク、ユニフォーム、プロテクター、メタルジャケット、グローブ、ハイソックス、シューズ、剣袋に用具バッグなどなど、一式そろえると10~20万はかかる。だからそうおいそれと足を踏み入れられないが、教室では中央大学所有のフェンシング道具を無料でレンタルしてくれるので、はじめての人や成長期の子どもも安心して通うことができる。
──すごく素敵な装備ですが、自前なのですか?
「最初は借りてやっていたんですが、やはり自分専用のものが欲しくなって…。フェンシングの魅力は様式美ですから、形から入るのも上達への一歩かなと。さすがに一度にそろえる勇気はないので、まずは肌に触れる内側のユニフォームから手に入れました。ひとつひとつそろえていって、次第に完成形に近づいていくのも楽しみでしたね。
でも試行錯誤もあって、じつは最初、初心者用のまあまあのユニフォームを買ったんですが、知れば知るほどいいものが欲しくなって…。オリンピック選手と同クラスの性能がある、倍ほどの値段のものに買い替えてしまいました(笑)。
じつは、もうひとつクラシックギターという趣味があって、思いきっていいギターを買ったときは本当にワクワクして、フェンシング道具も同じ。気持ちを高揚させてくれる、宝物です」
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剣がこのアルミの部分に当たると電流が流れて判定が決まるんですよ、と教えてくれる太田さん