歯と歯の間、歯と歯茎の間の虫歯に注意
「50代過ぎたら歯周病もですが、虫歯にも注意しましょう」と、昭和大学歯学部教授・山本松男先生は言う。
虫歯というと、たとえば奥歯の虫歯のように、食べ物をすりつぶす面にできると思いがちだが、年齢が上がるにつれて、別の場所にできるようになってくるという。
それが歯と歯の間、と、歯と歯茎の境である。講座では歯の付け根に虫歯ができた高齢者の例が紹介された。でも、なぜここにできるのだろか。
歯茎が下がると象牙質が露出する
歯の口内に出ている部分はエナメル質で覆われている。エナメル質は人体で最も硬い組織だといわれるくらい、とても強い。しかしエナメル質の下にある象牙質は柔らかくて虫歯菌に弱い。虫歯がエナメル質から象牙質に到達すると進行が速くなるのはそのためだ。
年を取って歯茎が下がってくると、象牙質が露出してくる。そこに虫歯菌がつくと、あっという間に虫歯になってしまう。だから高齢者には歯の付け根に虫歯ができやすくなるのである。
Wの作用で唾液が減る
また年を取るにつれて唾液も減ってくる。これは加齢によって唾液腺の機能が低下するからだ。唾液の中にはたくさんの抗菌物質が含まれているから、唾液が減ることも虫歯になりやすくなる要因のひとつとなる。
じつは唾液が減るのにはもうひとつ理由がある。薬である。
40代以上になると、多くの人が薬を飲んでいる。たとえば高血圧の薬、花粉症の薬、胃薬、頭痛薬……。山本先生によれば、いくつかの薬は副作用として唾液の分泌を抑制する方向に働くという。
つまり、加齢で唾液腺の機能が低下する。年を取ると多くの人が薬を飲むようになるので、中には薬の作用でますます唾液の分泌が減る人もいる。薬の服用は避けられないが、唾液の減少には要注意だ。
噛めなくなると食べ物の嗜好も変わる
日本人が歯を失う原因は、歯周病と虫歯だ。虫歯になると痛くなって噛めなくなるし、歯周病になると歯を支える骨がなくなってきて、歯がグラグラする。そうすると固いものや繊維質のものが噛みにくくなる。実際、奥歯がない人の食の傾向を調べると、繊維質の多い野菜や魚の干物を避ける傾向があるという。また、義歯の人はゴマや小魚が挟まると痛いので、それらのものを避けるようになる。
その代わりに多く食べるようになるのが、柔らかいご飯やパンである。ケーキやまんじゅうなど、お菓子もその多くが柔らかい。こうした柔らかい糖質の摂取量が増えると、ますます歯垢が歯と歯の間や、歯と歯茎の間にたまって、そこに虫歯ができやすくなる。つまり、年を取るにつれて、さまざまな要因の相乗効果で、歯の具合が悪化していくのである。
「歯を磨きすぎると歯の根が削られすぎたりはしないのですか?」
こうした加齢にともなう歯のトラブルを避けるためにも、しっかりした歯磨きが大切だ。そう言われると気になるのが、「歯の付け根を磨きすぎるとかえって削られすぎるのではないか」という不安である。
これに対して山本先生は、こう答える。
「歯ブラシを左右に大きく動かして磨く、いわゆる“横みがき”はよくありません。左右にガシガシ磨くと、歯が削れてしまうことがあります。正しい磨き方を身に着けるには、歯科で指導してもらうのが一番です。たとえば電動歯ブラシを家電量販店で買っても、使い方を教えてくれないでしょう? 僕のところ(昭和大学歯科病院)では、電動歯ブラシでも普通の歯ブラシでも、いつも使っている歯ブラシを持ってきてくれれば、磨き方を指導します」
また、山本先生は日本人が歯にあまり注意しない理由のひとつに、家屋の問題を挙げた。
「日本の家屋では洗面台がだいたい北にありますよね。昼間でも暗いから、あまり歯の状態が見えないんです。電灯を明るくしたり、時には明るい場所で鏡を見て、歯に歯垢が残っていないかチェックするといいですよ」
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取材・文/まなナビ編集室 医療・健康問題取材チーム