生き物であり、芸術品である
京都造形芸術大学が2010年からスタートさせた新型のアートカレッジ「藝術学舎」で開かれた「日本盆栽−小さな巨木」講座。講師は、日本で唯一の盆栽研究家・川崎仁美先生だ。
「“盆栽を楽しむ” というと、“盆栽を育てる” ことだと思い込む人が多いでしょう? でもそれでは、こんなに面白いものなのに、仕事や家事で忙しい人は楽しめないものになってしまいます。でももうひとつ、”盆栽を観る” 楽しみがあるんです。盆栽を鑑賞する楽しさ面白さをもっと広げたいんですよ」
川崎先生は、京都工芸繊維大学に在学中の18歳から盆栽の世界に入り、21歳で「これで生きていく」と決めて、盆栽のキュレーターとしての活動を始めた。卒業論文では絵巻物の中に描かれた盆栽について研究し、若くしてその道の第一人者(もしくは開拓者)となり、現在は盆栽を広める大使としての活動に勤しんでいる。
川崎先生によれば、盆栽は “生き物” であり、“芸術品” だという。鑑賞側から見れば、“嗜好品” ともいえる。では、どこをどう楽しめばよいのだろうか。
盆栽の最たるものは「松柏盆栽」
近年、「苔玉(こけだま)」が流行っているが、これもまた「盆栽」の一種であると川崎先生は説明する。
そもそも「盆栽」の「盆」とは器であり、「裁」とは植栽のこと。器に入った植栽が、自然への敬意をもって山水の形を表すものが「盆栽」なのだ。その中には、一年中青い葉をつける松・柏・杉などを育てる「松柏(しょうはく)盆栽」や、カリンやもみじなど広葉樹を育てる「雑木(ぞうき)盆栽」、山野草や苔をつけた「草もの盆栽」がある。
なかでも松・柏・杉など「松柏盆栽」が、盆栽の最たるものだ。古ければ古い方がいいという盆栽の骨董的価値観を叶えてくれるのが、この盆栽。松であれば香川県高松市の鬼無(きなし)の松や、北海道の豪雪地帯に育つエゾマツなど、ご当地ものを愛でる楽しみがある。
柏は真柏(しんぱく)のことで、ヒノキ科に属するミヤマビャクシンを指す。日本では、高山や海岸沿いの崖などに自生している。この植物の盆栽がまた、味わい深い。幹や枝を白骨化させた「神(ジン、先端部分)」「舎利(シャリ、幹の部分)」と呼ばれる部分が古木の風情を漂わせ、盆栽に風格を与える。コンテストなどでも評価される、人気のある樹種だ。
「雑木盆栽」になると、雰囲気が変わる。もみじなど季節による移り変わりを楽しめる「葉もの盆栽」、盆梅・皐月盆・盆藤など花を咲かせて楽しむ「花もの盆栽」、カリンや柿など結実を楽しむ「実もの盆栽」など、雑木盆栽は楽しみの幅が広い。樹齢は松柏盆栽に比べると短いものが多いが、季節感を楽しめるのがよさだという。
10cm以下の極小サイズも
以上は「樹種」による分類だ。そのほか盆栽を観るポイントとしては「樹形」や「サイズ」などがある。
樹形は、「吹き流し」や「懸崖(けんがい)」、「模様木」や「寄せ植え」など様々な形があり、盆栽家たちはその木の性質に合った形に、樹形を整えていく。
サイズも重要である。大物は40cm以上、中品は40cm以下、小品は20cmまでの棚に収まる小さめサイズ。ミニや豆盆栽となると10cm以下の極小サイズとなる。