1枚数万円の高価な紙にも
こだわりは、紙にも及ぶ。
「名筆が書かれた平安時代中期には精良な紙しかなかったので、同じように精良な紙で書くことも大切です。まず書きやすいし、見栄えもする。当時は書だけでなく、紙も愛でる時代でしたからね。それに何より、書くことで平安貴族の表現に近づき理解し、名筆が書かれた一端を感じられるんですよ、本当に(笑)」(細貝先生)
上級になった受講生の中には、地元・世田谷のリッチなマダムのような女性たちも。金箔などを施したものや飛雲紙(藍や紫の繊維を雲が飛んで行くように漉いたもの)、薄様5枚重ねのグラデーションになった継紙(つぎがみ)など、1枚数万円という高価な紙にも躊躇なく墨をのせていく人もいる。中には、紙漉きの人間国宝に作ってもらうというつわものも!
「高価な紙だから失敗できないって緊張するうちは、名筆に肉薄するようないい字が書けない。だからとにかく練習するようになるんですよ。書いているときは、優雅な貴族になりきっています。さんま焼こうとか掃除しなきゃっていう日常を忘れられますね(笑い)」(受講生の女性)
また「最初は半紙1000円って驚きましたけど、たしかに書いていて気持ちがいいんです。紙を集めるのって、お着物を集めるみたいなものかしら?」とにっこり笑う女性もいる。
単に縦線に見えるけど実は“ら”
受講生は、上級者ばかりではない。初心者も同じ教室で学んでいる。60才の手習いとして始めたという3年目の男性は、練習した半紙をたくさん手にして笑った。
「書道経験もなかったし、ぼくなんかは字形をまねるだけで精一杯なんですよ。何をどう連綿させるのか、なぜこういう形になるのかもわからない。でも、そんなぼくにもわかりやすく、書くコツを教えてくださる。
たとえば、お手本は単に1本の縦線のように見えるけど実は“ら”という文字で、こちらも“ら”を書く気持ちを持つとお手本と同じような、わずかなに曲線を描いた線を書けるとか。形が整ったら徐々に速度を上げると勢いが出るとか。そんなことを知って今、面白くなってきたところです」
終始和やかに授業は進み、自分の添削の番でなくても受講生たちは教壇に集まっていく。
「これ古い紙でしょ? 金箔の上に墨が乗ってるもの」と受講生が言えば、「その通り。1000年前を体感できたでしょ。立派な貴族です(笑い)。すばらしいできです。これからあと1000年残りますよ」と細貝先生。
書の魅力を力説する細貝先生を「マニアック~」と受講生は笑うが、その彼らもマニアックなのだった。
〔受講生の今日イチ〕気づけば紙を集めていって。お着物を集めるみたいなものかしら。
〔おすすめ講座〕
「名筆に学ぶ書道実技(漢字)」
「名筆に学ぶ書道実技(仮名)」
「名筆を極める書道実技(漢字)」
取材講座データ | ||
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名筆に学ぶ書道実技(仮名) | 国士舘大学 世田谷キャンパス | 2017年3月4日 |
2017年3月4日取材
文・写真/まなナビ編集室