風水は占いではない。歴史に学ぶ本来の風水思想とは

続・風水思想と東アジア@國學院大学

「風水」といえば、「西に黄色い物を置くと金運が上がる」など、方位占いのような印象を持つ人が多いかもしれない。ところが、中国発祥の風水は、日本で過去大ブームともなった風水とは思想が大きく違う。この講座では、中国をはじめ東アジアの文化の成り立ちや発展に欠かせなかった“本来の”風水思想を全10回で学ぶことができる。その第2回目を受講した。

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渡邊欣雄先生

渡邊欣雄先生

「風水」といえば、「西に黄色い物を置くと金運が上がる」など、方位占いのような印象を持つ人が多いかもしれない。ところが、中国発祥の風水は、日本で過去大ブームともなった風水とは思想が大きく違う。この講座では、中国をはじめ東アジアの文化の成り立ちや発展に欠かせなかった“本来の”風水思想を全10回で学ぶことができる。その第2回目を受講した。

紀元前5000年の住まいはすでに風水思想が見られた!?

そもそも風水とは、環境アセスメントであって、占いではありません

文化人類学や文化地理学を専門とする講師の渡邊欣雄先生は、開口一番そう話す。「環境アセスメント」とは一般に、人工的建造物の環境への影響評価と思われているが、渡邊先生はそうではないと言う。

「私は環境アセスメントとは、環境が人工物などに与える影響の評価のことをさすと定義づけています。つまり、街や住居の建設などを行う際に、環境からの影響を評価することをいうのです。豊かな自然、美しい空気や水といった環境は、人々が安全安心な暮らしを得るために非常に重要な判断となります」

つまり、中国古来の風水は、「都や集落、住居に最適な場所を得るために、地理・地形や方位などを観察する(調べる)術」というわけだ。

「風水」という言葉が文献上、発見できるのは漢代(紀元前206年ー紀元220年)だ。しかしこの講座では、仰韶(ぎょうしょう)文化期(紀元前5000年頃)までさかのぼる起源論を紹介している。「ヤオトン」と呼ばれる当時の住まいは、山に囲まれ、近くに水(池)があり、質の優れた「黄土」に穴を掘って作られた住居だった。それはまさに風水思想にかなった環境だったとの説があるという。

ヤオトンは横穴式住居です。古代から『穴』は、その字の形状から、横穴式住居のかたちだとされています。風水ではこんにち、気の集中スポットを『穴(けつ)』といいますが、ヤオトンのような横穴式住居の形状に由来するわけですね」(渡邊欣雄先生、以下「」内同)

山西省太原のヤオトン(八代克彦ものつくり大学教授提供)

『江西派』VS『福建派』! 分派して進化する風水

風水の定義が文献に現れるのは、晋の時代(紀元265年ー420年)の地理書、『葬経』とされてきた。

「乗は気に乗ずるなり。経に曰く。気は風に乗じて即ち散んじ、水に界されて即ち止む。古人これを集めて散んぜしめず、これを行かせれば止あらしむ。ゆえにこれを風水という」

あわせて、「気を読む」、「水を得て風を観る」、「地形を観る」、「方位を測る」など、数種類の風水理論と手法も記されている。

この『葬経』は郭璞(かくはく)という有名な文人によって書かれたとされているが、渡邊欣雄先生によればそれは誤りで、郭璞のずっと後代に書かれた作者不明の書だという。

「唐代(618ー907年)や宋代(960ー1279年)には、風水理論は大きく発展し、さまざまな流派が生まれます。その中でも大きな流派は、地理・地形・水流・植生などの観察を重視した『江西(こうせい)派』と、五星・八卦・十干十二支などの方位を重んじる『福建(ふっけん)派』でした。

さらに時代が下り、明代(1368ー1644年)・清代(1644-1912年)には官僚の知識だった風水が民間にも広がり、『江西派』が『形法(巒頭・らんとう)』へ、『福建派』が『理法(理気)』へとそれぞれ流布していきます」

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