鉄道は数ミリ狂わせても脱線事故に
「工事の規模が大きく、そのため現場にバッチャープラントと呼ばれる生コンクリートの工場を作って、供給しているほどです。しかし、スケールの大きさばかりではありません。実はここでは、いろいろな“工種”が同時に進んでいることが大きな特徴なんです」
工事は町なかで行われており、地表ではごく当たり前の生活が続けられている。特にここでは、既存の鉄道と国道が走り、さらにその下をくぐるように外環道を作る必要がある。地下に作る構造物の形は複雑で、しかも、その工事を既存の鉄道や国道を止めずに行わなければならない。既存の国道や鉄道にわずかでも影響を及ぼしてへはいけない。鉄道は数ミリ狂わせても脱線の事故につながってしまうのだ。
途中、川にぶつかることもある。その時は、流れる水を迂回させ、その間に川の流れていた部分の下を堀って構造物を作り、埋めた後に川をもとに戻す。
「鉄道も国道も川も、止めることができれば工事は簡単になるでしょう。実際、土地のある海外では、既存の道路や鉄道の横で、全くジャマされずに工事を行うこともできます。しかし、狭い日本ではそうは行きません。だからこそ世界に誇れる土木の技術が発達してきたんです」
見学したところを完成後に訪ねる楽しみ
一般の土木のイメージとは違い、そこで見えてくるのは繊細、かつ、慎重に築かれてきた日本が誇る土木の技術だ。前回、紹介した凍結工法も同様だろう。極端な温度変化があればトンネルが膨張したり収縮したりする。その影響を事前に計算して、あらゆる危険を取り除く。
また、日本では地震が多く、耐震技術も世界一だといわれている。日本では高層ビルが当たり前のように建っているが、ほかの国の土木専門家から見れば驚異的なことだ。
「確かにこれからの日本では、新設の土木工事が爆発的に増えていくようなことはないでしょう。しかし、それでも土木は必要です。土木は英語でcivil engineering--市民の工学と呼ばれます。人々が生活する限り必要とされる技術なんです」
あることが当たり前で、誰もが享受しているが、その存在さえ忘れがち。だが、なくてはならないのが土木というわけだ。
道路や鉄道の工事現場の見学には、完成後にもう一度、同じところを訪れ、自分で利用してみるという楽しみもある。新しい道路の上を自分で車で走らせたり、できた路線の鉄道に乗ったりすれば、そのおかげでいかに生活が快適になったのかが実感できる。そして、莫大な時間と手間をかけ、土木工事を行った意味も良く理解できる。
(続く)
〔今日のポイント3つ〕
・狭い日本では、既存の鉄道や道路を止めずに新しい土木工事を進める技術が発達した
・また、地震の多い日本では、耐震技術も世界一の技術を持っている
・あって当たり前、存在さえ忘れがちだが、市民の生活になくてはならないのが土木
〔講演中の今日イチ〕
土木は英語でcivil engineering、市民の工学と呼ばれます。人々が生活する限り、土木がなくなることはありません
〔大学のココイチ〕 2017年、豊洲へ中高一貫校の芝浦工業大学中学高等学校が移転。日本初「中高大一貫」の理系教育が実現する
〔前の記事〕「地下40メートル。絶対見られない土木工事の現場を」
〔関連講座〕「体感!土木の現場最前線!!~社会を支える土木の力~」
取材講座データ | ||
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体感!土木の現場最前線!!第2回~2020年に向けて変わりゆく東京~ | 芝浦工業大学公開講座 | 2016年11月12日 |
2017年2月13日取材
文/本山文明 写真/芝浦工業大学(土木講座写真)