通訳がうまくなるコツは、英語力ではなくて……
考える道筋のヒントとして、田村先生が強調するテクニックは、言葉の「機能」を見極めること。日ごろ何気なく使っている言葉も、必ず何らかの機能を持っている。例えば、感謝、紹介、承諾、確認、謝罪、挨拶などという具合だ。こうした機能に無頓着なままでは、いくら日常会話は流暢な人でも、通訳として場面に合った英文をつくれない。
たとえば「ご面倒をおかけしました」といっても、あるときはお詫び、またあるときはお礼の意味がある。前者であれば英語では「We’d(あるいは I’d)like to apologize for …」、後者であれば「Thank you very much for …」となる。
ほかには「よろしく」といった表現も難しい。曖昧で深い意味はないことを自覚しながら使っている人も多いだろう。例えば「会議室の予約をよろしくお願いします」という表現が担う機能は「依頼」だ。それがわかれば、「よろしくお願いします」を「予約していただけますか」と置き換えることができる。そうなって初めて、「Could you reserve the conference room?」という訳を選べるわけだ。
つまり、聞いた日本語をいきなり英語にするのではなく、わかりやすい日本語に変換するプロセスが必要。田村先生はこれを「再加工(リプロセシング)」と呼んでいる。プロの同時通訳者なら、頭の中で一瞬のうちに行っているのだとか。
空気を読むクセのある日本人は玉虫色の表現を使いがち。それをそのまま英語にするのは至難の業だ。日英通訳を目指すなら、英語力もさることながら、曖昧な日本語をわかりやすい日本語に「訳す」必要がある。
田村智子
たむら・ともこ 上智大学公開学習センター講師、通訳案内士。英語教育、ビジネス会議・交渉英語の指導、通訳(同時通訳・逐次通訳等)の訓練、英語圏の大学・大学院への留学準備の指導等を行っている。『アメリカでホームステイする英語』(南雲堂)、『同時通訳が頭の中で一瞬でやっている英訳術リプロセシング』(三修社)ほか多数。
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文・写真/小島和子 写真/小島和子(講義風景)