英語にしたら見えてくる「落語とはなんだろう」

落語とかけまして...(実演付)@上智大学

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講師の鹿鳴家英楽・かなりえらく先生

講師の鹿鳴家英楽(かなりやえいらく)先生

難しい英語圏での地口オチ

まず、英語での数少ない地口ギャグの例を挙げる。

「マイクロソフトがウィンドウズ10を出したんだってねぇ」
「そうなんだけど、ウィンドウズ9ってのは、一体どこに行っちゃったんだよ」
(実際にウィンドウズ9というのは出されず、「8」の次は「10」)
Seven eight (ate) nine.
(セブンがナインを食っちゃったンだろ)

日本語の地口を英語に訳す場合には、工夫が必要だ。たとえばお菊が皿を数える場合は──

日本語「1枚、2枚、3枚、4枚、5枚、……18枚、おしまい」
翻訳「One dish,two dishes,three dishes,……18 dishes,and finishes

「日本語版が『~まい』と脚韻を踏んでいるところを、どう翻案するか。英語版では『おしまい』を『finishes』として『~shes』で脚韻(きゃくいん)を踏んでみました。これはまずまずうまくいった例ですね」

英語原作にないオチをつくり出す オチのない話にも、落語にする場合にはオチをつけなくてはならない。

「数年前、神津友好さんの新作落語を参考にして、ハムレットを英語落語にしました。有名なセリフ『To be or not to be,that is the question』(このままでいいのかいけないのか。それが問題だ)と音が似ている言葉をオチにしています」

ネタバレになるので、英語落語「ハムレット」のオチは省略するが、似た例を挙げるなら、イギリスのロイヤルシェークスピアカンパニーの販売してる鉛筆の硬さ表記に「2B OR NOT 2B」と書いてあるようなもの。(コチラのHP参照)

ちなみに、講師が日本の新作落語を英語にしたものは以下のような例がある。

Something like a bar(立川志の輔作・バールのようなもの)
Ode to joy(立川志の輔作・歓喜の歌)
Snow in Hawaii(柳家喬太郎・布哇(ハワイ)の雪)

また、講師が古典落語を英語落語に翻案したものは以下のような例がある。
Scary Hamburgers ハンバーガーこわい(まんじゅうこわい翻案)
Time Burger 時バーガー(時そば翻案)
Milk Corporation ミルク公社(ぜんざい公社翻案)

「まんじゅうこわいも、まんじゅうでは英語圏の人たちには伝わらない。だったらどうするか。その国の人たちが身近に思っている食べ物と置き換えることで、笑いが伝わりやすくなります」

ハムレットの悲劇を庶民の感覚で

講師がめざしているのは、日本の落語を世界に伝えること。そして、落語という形式でなければ伝わらないやりかたを、それぞれの土地で根付かせたいということのようだ。

「まず、日本の落語を英語にして、世界に紹介したいと思います。そして、世界のさまざまな噺を落語仕立てにして、その国でも演じてみたいですね。 落語という世界に例を見ない形式の芸を、英語にして伝えると、日本語の世界ではわからなかった落語の特殊性がくっきりと見えてきます」

実際にこの日は「Snow in Hawaii」と「Hamlet」のふたつが実演された。

「Hamlet」は普通に演じれば2~3時間かかる演劇だが、英語落語版のハムレットはわずか10数分。ハムレットが父の亡霊と語り、毒入りの酒を飲まされそうになるところまでを超短縮でざっくり演じる。ハムレットの時には左上に目線を送り、父の亡霊を演じる時には膝立ちになり、両手を前に指先を下げる幽霊のポーズで右下を見る。親子の会話の密度の高さを感じるのは落語ならではの技だろう。

話の最後には、「そう来たか!」と思わず笑ってしまうダジャレ(地口)オチ。ハムレットという高尚なはずの悲劇を、庶民の感覚で捉えるとこうなるという、落語らしさの真骨頂だ。

「Snow in Hawaii」は、柳家喬太郎の新作落語「布哇(ハワイ)の雪」。病気になった昔の恋人に逢いにハワイに行くという不思議な状況の噺だが、これは高座に立った落語家が、お客さんから3つ、お題を出してもらい、即興で語る「三題噺」の形式で作ったもの。

「ハワイ」「八百長」「雪」という題で作られたもので、これは人情噺。ところどころに笑いを入れながらも、最後にはしっかりと泣かせる名作で、英語が苦手な記者はネットに上がっている日本語版を予習していたので、英語でも噺の中に没入して楽しめた。

英語だけで演じられる落語だが、演者の身振りや手振りなどで、とてもわかりやすくなっており、これは英語の勉強にもなった。

Profile●鹿鳴家英楽
かなりや・えいらく 神田外語大学、駒澤大学講師。キャナリー英語落語教室主宰。愛知県生まれ。上智大学外国語学部卒業、テンプル大学大学院卒業修了。教育学修士。落語立川流に参加。国連英語検定特A級などを取得。キャナリー英語落語教室はコチラ。http://canary.justhpbs.jp/

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