老化とは速筋線維が細くなること
フレイルとは、健康と要介護の中間的な状態で、年とともに筋肉量が減り、体重も減ってきて、疲労感も増し、歩くのも遅くなって、全体に活動度が低下してくることをいう。年だから、と放置していると、数年のうちに要介護状態へと移行してしまう。(詳しくは前の記事「メタボより深刻なフレイル。5年で半数が要介護状態に」)
フレイルになるのを防ぐには、まず筋肉をつけることが大切だが、運動生理学・健康科学を専門とする佐々木一茂日本女子大学准教授によれば、老化を防ぐには、同じ筋肉でも遅筋線維ではなく速筋線維を刺激しなければならないという。
「上は筋線維(筋細胞)の横断面を顕微鏡で見た画像です。持久力を担う遅筋線維と、瞬発力はあるけれども疲れやすい速筋線維が束になって筋肉が形づくられているのがわかります。太ももの筋肉の場合、両者の割合はだいたい同じくらいであるのが普通ですが、たとえば陸上の短距離選手は速筋線維が多く、マラソン選手は遅筋線維が多いなど、個人差もあります。
普段の生活では、遅筋線維が優先的に使われます。立ち続けるとか歩き続けるといった軽い長時間の運動はほとんど遅筋線維が担うので、普通の生活をしていれば、遅筋線維が細くなることはありません。
しかし日常生活で速筋線維はあまり使われません。そして老化の特徴は、この速筋線維が細くなることなのです。速筋線維が細くなると、動きが遅く鈍くなり、次第に動くことがおっくうになり、その結果として最後には遅筋線維まで細くなります。つまり老化というのは速筋線維が細くなることから始まるのです。
ウォーキングは有酸素運動で肥満やメタボリックシンドロームの予防・改善にはとてもよいのですが、速筋線維を十分に刺激することはできません。速筋線維を刺激するにはレジスタンス運動が効果的です」(佐々木先生)
速筋線維の萎縮を防ぐにはレジスタンス運動を
レジスタンス運動とは、スクワットなど筋肉にちょっと強めの負荷や抵抗をかける運動のこと。要するに筋トレ(筋力トレーニング)だ。これが速筋線維に効くという。それに対して、ウォーキングなど全身を使って行う有酸素運動は、主に遅筋線維を刺激する。
念のために簡単にまとめると、有酸素運動は、あまり強くない運動を長時間行うもので、エネルギーの消費量が大きく全身持久力を上げる効果がある。対してレジスタンス運動は、普段は眠っている速筋線維を刺激する強めの運動を30秒とか1分などの短時間行うもので、筋肉量を増やして筋力を上げる効果がある。
「速筋線維を鍛えるには、短い時間でよいので、普段の生活ではあまり経験しないようなちょっと強い運動をすることが大切です。速筋線維はすぐ疲れてしまうので、運動は本当に短時間でよいのです」
講座では下記のような自宅で気軽にできるレジスタンス運動の案内も配られた。
1フロア階段を上ればスクワット10回と同じに
「めんどくさそう……」と思う人もいるかもしれない。そういう人にぜひ勧めたいのが、1日に1回、階段を1フロア分上ること。階段を1フロア歩いて上るだけで、スクワットを10回やるのと同じ効果があるという。
「階段を上るのは普段の生活の中でできることですし、お金もまったくかかりません。それでいて速筋線維がしっかり鍛えられるのです。じつは階段は上るより下るほうが膝の関節には負担がかかります。上るのは疲れますが、膝にかかる負担は平地を歩くのとほとんど同じなのです。膝が痛くて平地を歩くのもつらいという方を除けば、階段上りは誰にでもおすすめできる運動です」 1日1回階段を上る。これを毎日の生活習慣にして老化を防ごう。 佐々木先生のアドバイスは食生活にも及んだが、それについては次回に。
(続く)
ささき・かずしげ 日本女子大学家政学部被服学科准教授
立教大学社会学部卒業。筑波大学大学院体育研究科、東京大学大学院総合文化研究科修了、博士(学術)。専門は運動生理学、健康科学。最近は特に女性の健康・体力づくりを中心に幅広く研究している。
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取材・文・写真/まなナビ編集室(土肥元子)