お兄ちゃんが持ってきてくれる12冊の束
クリーニング屋のお兄ちゃんも忙しいので、荷物の少ないときに3か月分くらいをまとめて持ってきてくれます。週刊ですから3か月だと1誌12冊。それが3誌あるのだから全部で36冊。その積み上がった束を読んでいくのが本当に幸せでした。
2、3か月分の週刊誌をまとめ読みする習慣は、図らずもマンガの作り方を学ぶことにつながりました。
ある程度の分量をまとめて読むことは、「なぜこういうふうに話をつくっているのか」ということに、否が応でも気づかされます。「なるほどここで大事なきっかけをつくっておいて、あとでこう解決するんだ」など全体を見渡すクセがつきました。もし1週間ずつ読んでいたら、何も気づかずに、作者や編集者の思惑に踊らされるだけになっていたと思います。これは非常に貴重な、よい経験だったと思っています。
私が中学時代の1964年は、ちょうど東京オリンピックの年でした。親友がドン・ショランダーというアメリカの水泳選手に夢中になって、「あんなにかっこいい人がいるならアメリカに行く」「アメリカに行きたいから英語を学ぶために外語大に入る」と言うようになりました。それを聞いて私も、〈自分の夢〉というものを前に進めなきゃという気になっていったのです。
当時、地方の田舎に住んでいる人間にとって、「東京へ出て漫画家になりたい」というのは、とても遠い夢でした。でも、アメリカ行きを熱く語る親友と毎日接する中で、私も自分の夢にもっと熱くならなきゃという気持ちになっていきました。
私は、映画のストーリーだと言って、親友に自分のマンガのストーリーを話したりしていました。私は自分の考えたストーリーが人にきちんと理解されるものかどうか、とても気になっていたのです。でも、それが私の創作であることはすぐにバレてしまい、実は自分の夢はマンガを描くことだと打ち明けることになりました。
東京オリンピックの年は、私が初めて他人に「漫画家になりたい」と明かした年であり、アメリカ行きを目指す親友とお互いの夢を誓い合った年でもあります。
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「焚き付けにした少年探偵団マンガ」
「問題作『風と木の詩』ついに連載まで」
取材講座データ
マンガはなぜ人を惹きつけるのか | 明治大学リバティアカデミー公開講座(中野校) | 2017年1月14日 |
2017年1月14日取材
文/露木彩 写真提供/竹宮惠子、明治大学