竹宮惠子氏講演「私をマンガに導いてくれた3冊」

マンガはなぜ人を惹きつけるのか(その1)@明治大学リバティアカデミー

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ほしい本を注文し、それが届くのを待つ時間は、ものすごくファンタジーなものでした。 今は「待つ」という機会がずいぶんなくなりましたし、自分がそれを手に入れられるかどうかということについてもすぐに結論が出ます。当時は、ひたすら待つよりほかなかった。でもその待っている間に、「自分はなぜこんなにこの本がほしいのか」「手に入れられたらこの本で何をしたいのか」といったことを、じっくりと考えることができました。

今の若者に歴史の話をすると「ファンタジーですね」と言われることがありますが、あの頃の待つ時間というのも、ファンタジーだったと思います。

「成績さえ下げなければ読んでいいよ」

小学生時代からマンガを描き始め、中学時代にはマンガを描くことが当たり前になっていました。でもマンガを描いていると知られるのは恥ずかしいと思っていましたし、親にも内緒にしていました。 

当時の私のマンガ制作で活躍したのが『世界文学全集』です。収録されている文学作品自体も大変面白いのですが、親が部屋に入ってきたときに『世界文学全集』の間に原稿をさっと隠して読書をしているフリをしていました。大人になって私は何度か引越しをしましたが、中学時代の“恩義”に報いるような気持ちで、この『世界文学全集』だけは捨てずにずっと大切に取ってありました。

親も、私がマンガ好きであること自体は気づいていて、あまりよろしくないと思っていたようです。ただ、母は女学生時代に中原淳一の大ファンで、その絵を真似て描いてみたりしたこともあったようで、マンガにも多少の理解がありました。

当時の母親というのは非常に忙しく、家庭の中でゆっくり本を読むような姿を見ることはなかったのですが、私がマンガを借りてくると、母から「あとでちょっと読ませて」などと言われることもありました。当時母は、水野英子先生の『星のたてごと』という作品の大人っぽいロマンスが気に入っていたようです。

ある日、「成績さえ下げなければマンガを読んでもいいよ」と言われ、私は晴れて正々堂々と読めるようになりました。成績を下げないという条件付きでしたが(笑)

私は小さなころから少年マンガをよく読んでいましたが、それは少年マンガにはたくさんのマンガ付録がついていたからです。中学に入ると友達同士でマンガの貸し借りをする機会が増えました。少女マンガは女の子どうしで貸し借りできるけど、男の子に気安く声をかけるのは恥ずかしい。そんなとき、クリーニング店のお兄ちゃんが、少年サンデー、マガジン、キングを全て揃えていることを聞き出し、頼んで貸してもらうことになったのです。

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