今はマンガ原稿用紙が売られていますが、当時は印刷する版面のサイズに合わせて自分で紙を切って原稿用紙を作るという非常にアナログな作業が必要でした。マンガの描き方そのもの、原稿用紙の作り方そのものを知る手段も、本に依るしかありませんでした。
徳島の書店主の助けを借りて
ただ、そういった情報が載った本があるらしいと知っても、すぐに買えるわけではなかった。当時私が住んでいた四国徳島の郡部では、近所に書店こそあるものの、そこに常に最先端の本が並んでいるわけではありませんでした。今ほど流通が発達していませんでしたから、新刊本が田舎のほうにまわってくる率というのが低かったんです。東京で得られる情報と、徳島の田舎で得られる情報にはものすごい格差がありました。
(ほしい本は近所の本屋さんに売っていないし、親にはマンガの描き方の本がほしいなんて口が裂けても言えない。どうしよう……)
困った私は書店に行って、おずおずと独り言をつぶやきました。「ここにない本はどうすれば手に入るのだろう」。するとそれを聞いた本屋さんが「なければ取り寄せますよ」と声をかけてくれたのです。こうして初めて親や教師以外の大人である書店の店主の助けを借りて、本の注文ができました。当時の私にとっては、自分のために本が遠くから届くというのは全く信じられないことでした。
この経験は、社会にはそういった流通システムがあるのだと知るきっかけになりました。また、そういった社会システムの恩恵を自分も受けることがあるとわかり、興味を抱くようにもなりました。