空気に晒して深くなる藍染めで自信がつく人も

藍染めと腰機でつくる涼の織物@藝術学舎(京都造形芸術大学)

街に藍染め浴衣があふれる季節。藍は夏に刈って藍玉を作ることから、「藍刈る」「藍玉」は夏の季語だ。「青は藍より出でて藍より青し」のことわざもあるほど日本人に身近な藍だが、藍がどのように染められるかはあまり知られていない。そこで東京のど真ん中、青山で本格的な藍染めを体験できる「藝術学舎」(京都造形芸術大学)の「藍染めと腰機(こしばた)でつくる涼の織物」講座に参加した。

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街に藍染め浴衣があふれる季節。藍は夏に刈って藍玉を作ることから、「藍刈る」「藍玉」は夏の季語だ。「青は藍より出でて藍より青し」のことわざもあるほど日本人に身近な藍だが、藍がどのように染められるかはあまり知られていない。そこで東京のど真ん中、青山で本格的な藍染めを体験できる「藝術学舎」(京都造形芸術大学)の「藍染めと腰機(こしばた)でつくる涼の織物」講座に参加した。

まるでそうめんの湯通し作業

藍染めは、植物染料の中でも特殊な染め工程を持つという。大気中や水中の酸素による酸化で発色させるのである。この講座では、藍染の工程を座学で学び、麻糸や持参したTシャツなどを染める実習をし、最終的には麻糸から織物を作るところまで体験する。今日はとりあえず「染める」ところまでだ。染織家の乾育子先生による藍染め工程の解説のあと、5名ほどのグループに分かれ、早速藍染めの実習に入った。

染織家の乾育子先生による藍染工程解説

まず麻糸を湯通しする。これは不純物を除いて糸を染まりやすくするための工程だ。これにはもうひとつ、糸が乾いた状態だと、糸の内部まで染料が入りにくく、また染まりむらもできやすいので、それを防ぐという意味もある。その風景はまるで、大釜で素麺(そうめん)を茹でるような感じである。

素麺を茹でるような麻糸の湯通し作業

防虫効果もあるという藍は独特なにおいがする

次に藍の液が入った大きなボウルが、各グループの前に置かれた。湯通して染まりやすくした真っ白な麻糸を、静かに藍の液に浸す。藍の液が入った大きなボウルの中に麻糸を浸して糸を揺らし始めると、教室内を、鼻をちょっと覆いたくなるようなにおいが充満する。藍には独特なにおいがあり、藍染めは防虫効果があると聞いていたが、このにおいなら納得だ。

独特なにおいとともに、色が染まってきた

液に浸して、空気に晒して、酸化させて。それを3回

5分ほど藍液に浸した後、ボウルから出して空気中の酸素に触れさせると、一気に酸化が進む。「よーく空気に晒してくださいね」と、乾先生はアドバイス。藍染めは、大気中や水中の酸素による酸化によって発色する。その酸化の工程が藍染めの要であり、インディゴの青い発色が繰り広げられるのだ。

恐る恐るみんなで手を入れて…

藍液に浸して水面下で静かに絞り、糸を整えながら空気に晒して酸化させる、という手順を3回繰り返す。2回、3回と回数を重ねると、みるみるうちに藍色に染まっていく。

「わぁすごーい!きれい!」
「素敵ー!」

化学変化がもたらす不思議と天然ゆえの繊細な色合いに、思わず喜びと驚きの声が教室内のあちこちで上がる。

皆さん、綺麗な藍色に染め上げました

今度は絞りに挑戦。Tシャツが、エコバックが、おしゃれに変身

藍染めってこんなふうに染まるんだと分かったところで、今日は受講生があらかじめ持参してきたTシャツやストール、エコバックを染める工程に入る。

Tシャツの一部に絞りの模様を出すために、ねじって白い部分を残す作業

最初は何となくぎこちなかったグループワークも、絞りの工程に入るころには、すっかり和やかモードに。おしゃべりもどんどん弾む。

さっきのTシャツがこんな藍色に染まり、絞りの模様がこんな風に出ました。

「青は藍より出でて藍より青し」の意味がわかった

藍色は、藍液に浸すのを繰り返すごとに藍の色味が増し、より深い藍に染まる。なるほど!「青は藍より出でて藍より青し」のことわざは、そのことを言っているのだ。このことわざは、「師匠より数段高い技術を習得するとは、大したものだ」との意味で使われる。たしかに最初の藍液より、藍に染められた布のほうが、深みのある青に染まっている。

藍独特の青色には一度では到達しない。何度も染めて、空気に晒し、自分の目指す青色に近づけていく。濃い青も薄めの青も、染める回数や原料の色合い、繊維の種類によって変化する。その化学変化は、自然にして精妙で、よくこれを古代の人は発見したものだと感心する。

染め上がったTシャツなどを乾かす。濃淡もいろいろ、絞りもいろいろ

染めた糸を織って布を仕上げることも

乾先生は言う。

「ご自身で手を動かし、真っ白な布が藍色に染まっていく工程をたどっていくと、自分の手で作りあげる喜びが実感できます。実際に手を動かして染めたり、糸を織って布を作っていくなかで、ご自身の中にある可能性や、ご自分でも忘れていた思いなどに気づかれたということをお聞きすることがあります。学びとは新たな自分の発見なんだなあとうれしく思います」

この講座の講師を一緒に勤めている高橋淑恵先生(染色作家、Studio dei Sol代表)によれば、受講生の中には藍の原料となるタデアイ(草)を自宅で栽培している人もいるという。

乾育子先生(向かって左)と高橋淑恵先生(右)

「染め物や織物は難しいのではないかしら……と、興味はあってもしり込みされる方が多いのですが、今見たように、体験して実際に手を動かしてみると、楽しさが実感できるんですよ。この藍染め講座では糸から布を織りあげることもするんですが、こんなに簡単で小さくて、自宅でも簡単に出来る機織り機を使います」と高橋先生が説明し、乾先生がくるくると丸めた機織り機を広げた。

これは腰機(こしばた)といって、機織り機でも最もシンプルなもの。いわば機織り機の原型とでもいうべきものだが、今もアジアの少数民族などで使われているという。

最後に、発芽したタデアイの鉢を乾先生が見せてくれた。こんな小さな芽でも、鼻を近づけるとあの独特な藍のにおいが漂ってくる。

〔あわせて読みたい〕
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◆取材講座:「藍染めと腰機でつくる涼の織物」(藝術学舎〈京都造形芸術大学〉外苑キャンパス)

文・写真/Yukako

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