英国パブリックスクールの「体育教育」がヒントに
寺島善一先生(明治大学名誉教授)が講師を務める講座「2020年東京五輪を考える―オリンピックの歴史・思想と現実の諸問題」は、「そもそもオリンピックとは何なのか? オリンピックはいかなる理念を持ち、発展してきたのか?」を学ぶ講座。オリンピックは競技を見るだけでも楽しめるが、歴史や理念を知れば、奥行きが増すこと間違いなしである。
近代オリンピックはフランスのピエール・ド・クーベルタン男爵によって創始された。第1回は1896年に開催されたアテネ・オリンピックである。
フランスの教育学者であったクーベルタンは教育改革を推進する中で、教育に「身体的側面」が欠落していることを実感していたという。そこで英国に渡り、パブリックスクールで行われていた「体育教育」に着目、参考にした。そしてもう一つ、クーベルタンが学んだのが古代ギリシャのオリンピックであった。
古代ギリシャのオリンピックは、紀元前776年に始まり、(紀元後)394年まで続いたもので、全知全能の神・ゼウスに捧げる神事として開催されていた。その理念や仕組みの多くが近代オリンピックにつながっている。
4年に1度、“停戦”して行われた古代オリンピック
寺島先生は語る。
「まず、古代ギリシャのオリンピックは、近代オリンピックと同じく、4年に1回、開かれていました。優勝した人には何か物理的な褒賞があるというわけではなく、オリーブの木でつくられた冠だけが与えられたのです。ただし、優勝した人の出身地には神の祝福があると信じられていたので、郷土に神の祝福をもたらすために、選手たちは必死に戦いました。
それから大事なのは、古代のギリシャは多数の都市国家に分かれていて年中戦争をしていたのですが、オリンピック期間中は停戦するというルールができていたことです。
近代オリンピックもこの平和の精神を保持しようと試みたわけですが、二度の世界大戦によって中止せざるを得なかった。第一次世界大戦中に一度、第二次世界大戦中に二度、ですね。
古代オリンピックが一度も途切れることなく1000年以上も続いたのに対して、近代オリンピックは、100年余りの歴史の中で、3回も中断したのです」