漱石が先取りした「現実に対して部外者」な生き方

夏目漱石生誕百五十年記念講座「『彼岸過迄』を読む」@鶴見大学生涯学習センター

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鶴見大学文学部名誉教授・相良先生

「どちらが真の主人公か?という問題は、実は後期三部作に共通したものです」と相良先生は明かす。

なぜあえて、読者を煙に巻くような複雑な構造にするのだろう?

相良先生いわく、「複数の主人公を置くことで真実を相対化し、読者に複眼的な思考を促しているんです」

「自分の人生を生きているか?」と漱石は問う

もう一つのポイントは、語り手の敬太郎がモラトリアムを過ごしており、実社会から離れた存在である点だという。

「便所から帰って夜具の中に潜り込む時、まあ当分休養する事にするんだ」(作品本文より)などとつぶやき、気の向くままに歌舞伎を見に行ったり、文芸評論めいたことをしている。なるほど、敬太郎はいわゆる「高等遊民」そのものだ。

「経済的には恵まれていて、自分で稼ぎを得る必要のない敬太郎は、生活者の視点を持たず、何に対しても観察者に過ぎない。つまり、自分のドラマをつくっていない。自分の人生を生きていないわけです」と相良先生。

これは敬太郎だけの特質だろうか? 「現実に対して部外者のような姿勢は、きわめて現代的」だと相良先生は指摘する。

あふれんばかりの情報に囲まれて、何でも疑似体験できてしまう今日、多くの人が自分で体験することなく、「プチ評論家」になりがちな世相を先取りしていたと言えるかもしれない。

〔講師の今日イチ〕読み返すほどに新しい発見があるのが漱石作品の魅力
〔大学のココイチ〕会場の「鶴見大学会館」は、JR京浜東北線鶴見駅西口から徒歩1分とアクセスもいい

 

取材講座データ
「『彼岸過迄』を読む」 鶴見大学生涯学習センター 2017年春期

2017年4月14日取材

文/小島和子 写真/小島和子(講義風景)、国立国会図書館website、小学館SVD

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