ときには細い木が太い木をとりこもうとすることも
押しやろうとしたり取り込もうとしたり。これを判断しているのは、もちろん“脳”ではない。ではどこが指令を出していいるのだろうか。堀先生によれば、これもまた植物ホルモンなのだという。ホルモンの作用とはかくも絶大なものなのだ。
自分の体の外に消化酵素を出し、相手を溶かしてから吸収する菌類
堀先生の解説する樹木の防御反応も恐ろしいが、以下に語られる菌類の食事方法もなかなか怖い。
「樹皮がはがれたり、虫に食われたりすると、きのこなどの菌類の胞子が付着し、そこから菌糸を伸ばして木を食べ始めます。菌類の食べ方は、動物の食べ方とは違います。動物は食べ物を摂取するとき、相手を一度自分の体に取り込んで、体内で消化酵素を出して消化します。しかし菌類は体外に、セルロースを分解するセルラーゼなどの消化酵素を出して溶かして吸収するんです。この栄養の摂取の仕方が、動物と菌類の大きな違いです。当然、樹木はつよい防御反応をし、そこで菌類による分解が終わります。しかし後には菌の食べ残しができる。それが空洞となります」
空洞ができると木はそれを察知する。なぜ察知する必要があるのか。風を受けて幹や枝が揺れるとき、それを伝えない部分ができるからである。そこで木はその周りの年輪成長を早めて太らせたりする。よく木の一部がぷっくりふくれていることがある。私たちはそこが肥大しているから丈夫なのだろうと思いがちだが、じつは何か理由があって肥大成長をさせているということで、そこは弱い部分なのだ。
堀先生は語る。
「樹木は動物より長い年月、生きる生き物です。しかし、一度ある場所に定着したら、場所を変えることはできない。動物だったら敵が来たら逃げればいい、寒ければ暖かいところへ行けばいい。だけど、植物は場所を変えられない。その場所で生き続けるために、動物よりもはるかに強い防御反応を持っているのです。樹木の形にはそれが現れているのです」
(続く)
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