なぜラビリンスが教会の床に描かれたは謎
ラビリンス・ウォークとは、円の中に描かれた曲がりくねった1本道を瞑想しながら歩くことをいう。
上智大学では「シャルトル・ラビリンスを歩く ラビリンス・ウォーク~歩きながらの黙想」講座が開催されており、その模様は前の記事「歩きながら瞑想が新たなトレンド?ラビリンス・ウォーク」で紹介した。
その図版は、13世紀に、フランスのシャルトル大聖堂の床に描かれたものを元にしている。中世のフランスではアミアン大聖堂などでも床にラビリンスが描かれた。しかし、なぜ教会にラビリンスが描かれているのか。それは現在でも謎のままだ。
ラビリンスを歩くときの『三つのR』
このラビリンス、イギリスでは芝で作られたものもあるという。
上智大学名誉教授のリチャード・ガーナー先生と共に、ラビリンス ウォーク・ジャパン ( LWJ )の運営に携わる武田光世先生はこう語る。
「もともと『ラビリンス』自体は、紀元前2000年頃のクレタ島の遺跡からも見つかっています。フランスのシャルトル大聖堂の床などにも敷設されたものだけでなく、イギリスの芝で作られたラビリンスをはじめ、世界各国に様々な種類のものがありました。
しかし今日のように広く知られるようになったのは、アメリカのサンフランシスコにあるグレイス大聖堂の司祭で、心理士の資格も持つローレン・アートレスが、1991年にシャルトル大聖堂のラビリンスの線の上を歩く『ラビリンス・ウォーク』を教会の活動に導入したことが始まりです。
アートレスは、ラビリンスを歩く過程を『三つのR』として提示しています。
中心に向かいながら心身を解き放つ『リリース』
中心で体験を受け取る『レシーブ』
外に戻る『リターン』
また、多くの人が歩く前後に『リフレクト』という内省を推奨しています。これらのステップさえ守れば、どんな歩き方であってもよいのです。
また、ラビリンスにおいては、『正しい体験』も『間違った体験』もありません。仮に何も感じなかったとしても、それが間違っているわけではないのです。体験することに意義があるので、自分なりの歩き方をすることが重要だと思います」(武田先生。以下、「 」内同)
東日本大震災や熊本地震後、心のケアにも利用
ラビリンス・ウォークは、非常にシンプルな手法のため、文化や言語の境界線を越えて、共同体を癒し、ねぎらう空間作りにも利用されることが多い。
「『円』などのシンボルやイメージを用いての儀式は、西アフリカで行われている円を描いて踊る『リングシャウト』から、円になって踊る日本の盆踊りまで、世界各国で見られるものです。それゆえ、ラビリンスは、自然災害やテロ事件などへの追悼や連帯の集いに利用されることもあります」
日本においても、被災者のケアのためにラビリンス・ウォークが実践されたことがある。2011年の東日本大震災の際には、震災翌年に東京で開催。また、5年後には仙台でも開催された。
2016年の熊本地震の際は、半年後に熊本でラビリンスを歩く集いが催された。
「ラビリンス・ウォークを体験後に寄せられた感想には、『震災後、初めて何も考えずにいられた』『苦労が多い人生を真っ直ぐに生きてこられて良かった』などといったものがありました。
曲がりくねった道や真っすぐな道などが織り交ざる一本道のラビリンスは、まさに人生そのものであり、自分自身を振り返る契機にもなります」
キリスト教という枠組みを超えて、広がりを見せるラビリンス・ウォーク。現在、日本では、常設されて黙想に使われているラビリンスは、東京都小金井市と愛知県名古屋市の聖霊修道院だけだが、武田先生たちが運営している「ラビリンスウォーク・ジャパン」では、シャルトル大聖堂と同じラビリンスを模した、持ち運びが可能な布製のものを使用して、ラビリンスの会を開催している。
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◆取材講座:「シャルトル・ラビリンスを歩く ラビリンス・ウォーク~歩きながらの黙想」(上智大学公開学習センター)
取材・文・撮影/藤村はるな