数学や物理学べば発達障害への偏見の愚が分かる

哲学 ― 常識批判の基盤を形成するために@早稲田大学エクステンションセンター中野校

発達障害の当事者たちの声を集め、彼らの現状と困難を伝えたNHKスペシャル『発達障害 ~解明される未知の世界~』(2017年5月21日放送)は大きな反響を呼んだ。人と違うというだけで生きづらくなる日本。しかし学問の世界では、100年も前の段階で、“自分と違うから”という理由で他者を排除する考え方に意義を呈するという変革は発生していたのである。

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早稲田大学教授、那須政玄先生

早稲田大学教授、那須政玄先生

発達障害の当事者たちの声を集め、彼らの現状と困難を伝えたNHKスペシャル『発達障害 ~解明される未知の世界~』(2017年5月21日放送)は大きな反響を呼んだ。人と違うというだけで生きづらくなる日本。しかし学問の世界では、100年も前の段階で、“自分と違うから”という理由で他者を排除する考え方に意義を呈するという変革は発生していたのである。

自分の話を延々とする人

記者の昔からの知りあいで、何の仕事をしても上昇気流に乗れない人がいる。決して能力がないわけではなく、怠惰でもない。だが、あることが欠けている。自分を客観視する能力だ

仕事をするにしても、その人にとって大事なのは自己の利益。話をすれば自分主体の話題。その人のスタイルはいつでも「自分は」「自分が」だ。そのため周囲から見ると他人を思いやっていないように感じられてしまうのだ。実際、その人と一緒にいると、こちらの話は聞いてもらえず、自分の話だけ延々と聞かされる。結果、自然と距離を置くようになった。

人は誰でも子どものころには保護者に守られ、世間から優遇されて、「自分は世界の中心だ」と思いこむ。それが長じるにつれて、自分の人生の主人公は自分だと認識したうえで、他人も尊重するようになる。それが成長というものだ。このプロセスはとても大切で、幼少期に保護された記憶がない人ほど、いつまで経っても周囲に自分への注目や讃美を求めるといわれる

つまり成長のひとつの指標は、「主観から客観へ」と変化できることにある。同じことが、100年前、学問の世界で次々と起こったのだという。

水平線から見えてくる船は帆柱から

水平線から見えてくる船は帆柱から

この100年前の大変革について教えてくれたのが、早稲田大学エクステンションセンター中野校で開催されている那須政玄教授の「哲学―常識批判の基盤を形成するために」の第6回「人間と動物―動物は人間よりも劣っているのか―」だ。主観から客観へ。その大変革は、19世紀から20世紀初め、数学、物理学、心理学、そして生物学の分野で起こった。

「数学界ではそれまで主流だった『ユークリッド幾何学』とは異なる『ロバチェフスキー幾何学』や『リーマン幾何学』が生まれました。『ユークリッド幾何学』は、世界には無限に平面があるという前提で、平行線は交わらないとする学問です。しかし地球は丸い。水平線から見えてくる船は、船の全景ではなく、一番高い部分の帆柱から見えてきます。これこそ地球が丸い証拠です。もし真っ平なら、遠くに小さく見えるものが大きく見えてくるだけですから。つまり、今まで前提として考えていたことが覆ってしまった。平面ではない前提でものごとを考えなければいけないのでは、というところから、新しい幾何学が生まれました」(那須教授)

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