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学びの旅は奥の細道。コミュニケーションの場を提供

明治大学リバティアカデミー長の大友純先生(明治大学商学部教授)

年間、約2万人が学ぶ「明治大学リバティアカデミー」。1999年の創設以来、受講生を増やし続けている明治大学の生涯学習拠点だ。現在は駿河台キャンパス、和泉キャンパス、中野キャンパス(以上東京都)、生田キャンパス、黒川農場(以上川崎市)の5拠点で、年間400を超える講座を開設している。人々は何を求めてリバティアカデミーにやってくるのか? アカデミー長の大友純先生(明治大学商学部教授)と、事務局の河合充氏にインタビューした。前・後編にわたってお届けする。

新たなコミュニティーを創出

明治大学リバティアカデミーは1999年、約35講座で始まった。当時の受講生は約2000人。それから18年後の現在、講座は400を超え、受講生は2万人にのぼる。リバティアカデミーの人気の秘訣はどこにあるのか。大友純先生はまず、多岐にわたる講座内容を挙げる。

「そもそも大学には、<教育><研究>に加え<社会貢献>という柱があります。この3つ目の柱=<社会貢献>を実現しているのが我々のリバティアカデミーです。現在は『教養・文化』『ビジネスプログラム』『資格・実務・語学』の3つの分野に分け、多彩で楽しく実りある講座を用意しています。

『教養・文化』は、日中の授業が多いこともあり、シニア世代が多く受講されています。10年以上通われている熱心な受講生もいらっしゃいますね。『ビジネスプログラム』は、文字通りビジネスマンが、少しでもビジネスに活かそうと活用されています。私自身も、専門のマーケティングの講座を開いていて、おかげさまで長年続いています。そして『資格・実務・語学』は、社会人のみならず、学生の受講も多いんです。たとえば、学部の正課授業の空き時間を活用してネイティブ講師に学ぶ<チャレンジ! 毎日学べる実践英会話>は学生にも人気が高いですね。学生を対象とした講座があるのも、このリバティアカデミーの特徴です」

年齢も背景も異なる人々が学ぶ講座には、自ずと“コミュニティ”が生まれる。このコミュニティもまたリバティアカデミーの魅力だ。事務局の河合充氏はこう話す。

「学生からシニア世代までが同じ教室でともに授業を受ける、これは社会人向け講座ならではの環境です。この環境が、他にはないコミュニティを生みだしています。講座のあと、皆さんで食事に行ったり、飲みに行ったり。すべての講座が終了すると、一泊二日で記念旅行に出かけられる方々もいらっしゃる。こうした動きが、事務局が何か働きかけをしたからではなく、自発的に出てくるんですね。事務局としても大変うれしく感じています」

一人で学ぶのも楽しいが、仲間と学ぶのもさらに楽しいものだ。その仲間が、会社などではなかなか出会えない異業種・異世代であれば、新鮮味は強まる。「我々は知識情報のみならず、新しいコミュニケーションの場を提供している」という大友先生の言葉は、リバティアカデミーの精神を体現している。

アグリサイエンス講座の実習風景

トマト、枝豆……午後は農場で農作業

リバティアカデミーは講座の品質向上にも力を入れている。講座の講師は、原則として明治大学の教員が務める。ただし『資格・実務・語学』分野の中には、明治大学の教員に有資格者がいないものもある。その場合は専門部会を設けてていねいに審議した上で、講座の開講を決定するという。

また、教室の中だけでなく、教室“外”の講座も充実している。たとえば人気講座の一つに、<アグリサイエンスアカデミー 有機農業講座>がある。黒川農場で開講されている講座だ。午前中に講義を受けたあと、午後は農場に出て、実際に農作業を行う。トマト、枝豆、スイートコーン……、一年かけて、10数品目の野菜の有機栽培を学ぶ。「最近、趣味で家庭菜園を始める人が多いですよね。こうした講座を開けるのは、農学部をもつ総合大学の強みだと思います」と大友先生は語る。

講座が多様である分だけ、学びのかたちもまた、多様になる。

「私が担当しているビジネス講座には、自分の仕事に役立つヒントを得たいと受講生が集まってくるわけですが、彼らが講義で学ぶのは主に理論です。未来を見通すには理論が必要なんですね。理論を知った上で実践を行えば、ビジネスはより強固なものになります」(大友先生)

仕事で利益を出すために学ぶ『ビジネスブログラム』。一方、その対極にあるのが、『教養・文化』の講座だ。大友先生はこう続ける。

「たとえば『源氏物語』を学ぶ人に、これを学んで儲けてやろう、なんて気持ちは一切ないはずですよね。自分の知識が広がるのが楽しい、『源氏物語』を通じて専門の先生とコミュニケーションをするのが楽しい、そういう純粋な気持ちで受講されている。学ぶよろこびが、そのまま、生きるよろこびにつながっていることを、我々はあらためて教えられています。ですから“学び”とひと言でいっても、その目的も、かたちも多様なのです」

学ぶことの奥深さ――ここから生まれてきたのが、2017年度春期のパンフレットに記されている印象的なコピーである。<学びの旅は奥の細道、智を踏み分けて未知を知る楽しさ>。

着物を着て、称号授与式に参加するシニアも

そもそも明治大学リバティアカデミーの運営には、アカデミー長である大友先生が専門とするマーケティング的な影響が色濃く反映されている。

「キャッチコピーを考えるのは好きですね。オっと目を留めてもらえるようなコピーを考えるのは重要なマーケティングの一つですから。<創利工夫><講座覿面(てきめん)><一念発知>など、誰もが知るような四字熟語を少し捻って、新しい言葉を作ったりしているんです」(大友先生)

授業の後には必ずアンケートを取り、受講生の声を反映していく。それから受講生の学ぶ意欲をより高め、学んだ成果を目に見えるかたちで表すために「ポイント制」を導入した。講座を修了するとポイントを取得でき(ポイント数は、講座ごとに設定されている)、ポイントが一定数たまった受講生には、リバティアカデミー独自の称号を授与するという修了制度だ。毎年3月に、修了証書と記念品の授与式が開かれている。ここで受講生たちの笑顔を見ることが何よりの喜びだと、大友先生は語る。

「毎年100名を超える方が称号を授与されています。着物をお召しになって参加されるシニアの方もいらっしゃいます。『孫が明治大学に通っているので、私も明治大学に表彰されて嬉しいです』と、おっしゃった方もいました。マーケティングも本質的にお客様を笑顔にするための活動なんです。受講生の笑顔を見ると、リバティアカデミーをもっともっと良い学びの場にしていかなければと身が引き締まるのです」

(続く)

年2回発行されている明治大学リバティアカデミーのパンフレット

〔おすすめ講座〕
博物館をゆく
実践・マーケティング戦略セミナー
財務分析入門編
安全学入門
アグリサイエンスアカデミー有機農業講座

2017年2月17日取材

文/まなナビ編集部  写真/下重 修