まなナビ

子供のやる気を引き出す言葉と親の態度

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英語教育とコーチングの第一人者である本間正人先生(京都造形芸術大学副学長・創造学習センター長)は語る。「人は誰でも学習意欲を持っている。どんな小さな子供でも、どんな年取った大人でも」。しかし、子供にやる気を起こさせることができずに悩んでいる人はたくさんいる。そこで本間先生にやる気を起こさせるコツを教えてもらった。

「こうしなさい」と言われれば受け身に

──【まなナビ】は社会人のための学び直しの情報サイトですが、ここにいらっしゃる方々の中には、お子さんやお孫さんの教育に悩まれている方も多いと思います。「子供にやる気を起こさせたいのにうまくいかない」という悩みに、よいアドバイスはありますか?

ヒトはそもそも、いろんなことに興味関心を持って学ぼうとする、好奇心の強い動物です。その証拠に、小さな赤ちゃんはいろんなものに興味関心を示し、手に触れようとし、口に入れようとするでしょう? 一種の学習行動ですね。でも学校教育においては、「教える」「教わる」といった関係性が中心になってしまって、自ら学ぶ力が削がれてしまうケースが出てくる。これは、学校教育のひとつの弊害だと思っています。

そもそも親や教師と、子供や生徒とではポジションが違います。親や教師は圧倒的に強い立場にある。親や教師に「ああしなさい」「こうしなさい」と言われれば、子供はその権力に従属せざるを得ない。これでは子供が受け身になってしまいます。こういう上下関係の中で主体性や能動性を引き出すのはとても難しいのです。

京都造形芸術大学副学長の本間正人先生

夏のビールの最初の一口と同じ

──わかっていても、どうしても叱ってしまうのですが…

『限界効用逓減の法則』というのがあります。恋愛しているときはドキドキしたのに、結婚した途端ときめかなくなった。夏に飲むビールは最初の一口はあんなにおいしいのに、途中からおいしくなくなってくる。人間はそれを〈慣れ〉とか〈飽き〉といった言葉で表現しますが、叱られる子供も同じこと。「まったくあの子、何回言っても勉強しないんだから」といった愚痴をよく聞きますが、何回も言い続けると、「まーたガミガミ言ってる」「またママが怒ってる」と思うようになり、どんどん効果が下がっていきます。

──たしかに。仕事でも家事でも、あれこれ命令されればされるほど、やりたくなくなってきます。

人に何かをさせようと思ったら、その人が自分で自分を納得させないといけない。だから何かをやらせようとして同じことを繰り返しても効果はあがらないのです。

たとえば、会社の中で企画を上層部に通そうとするとき、手を変え品を変え、その人がそれをやろうというまで説明するでしょう? お小遣いを増やしたいと思ったら、なぜ必要なのかをさまざまな理由を言って納得させるでしょう? 子供についても同じ。叱るだけでなく、子供が自分で納得して、主体的に行動するようにしないといけないのです。

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親も学習者という共通の土俵に

何回言ってもわからないというのは、何回も同じことを同じように言い続けている親の側に問題があると思いましょう。自分で選んだ趣味や仕事を続けていくのにも根気がいるのに、ましてや、自分以外の人間に、そこまで好きでもないことにやる気を起こさせるには、それなりの工夫が必要です。

──では、子供のやる気を引き出すにはどうしたら?

主体性や能動性を引き出すには、「やれ」ではなく「やろう」と声をかけることです。「この本を読みなさい!」ではなく、「この本を読もうよ」と言うことです。

つまり親の側も「学ぶ意識」を持つ。立場は違っても「学習者」という共通の土俵に立つことが、とても大事です。すると、子供もひとりで「やらされる」のではなく、「一緒にやるんだ」という感覚になります。そこで能動性が引き出されてくるのです。

──同じことを一緒にやるのですか?

同じことでなくてもよいのです。種目が違ってもいい。「あなたは算数ね、私はこれからこの栄養学の勉強をするけど、一緒にやろう」というふうに。

「私は30分で終わらせようと思うけど」

男の子には競争心の強い子も多いから、「私はこれを30分で終わらせようと思うけど、あなたはどれくらいでできる?」なんてタイムトライアルにしたら盛り上がりますよ。勝負に負けたくないから「今度はもっと早くやってやろう」となる。「やるか、やらないか」から、「もっと早くやろう」に変わったらしめたものです。

だから、自分も一緒に何かを学ぶ。英語でもいい、歴史でもいい。もちろん親が働いている姿を見せるのもよいことだけれども、学んでいる姿を見せるのも、とても効果的です。もしかしたら、親が学んでいるものに、子供が夢中になることがあるかもしれない。

──2020年度には小学校での英語教育とプログラミング教育の必修化が始まります。子供から、「お母さん、これわかる?」と聞かれることもますます増えていくかも……

今でも小学5年生から英語は必修となっていますが、2020年度からは、小学3年生からの必修化と小学5年生からの教科化が始まります。これは、小学校だけの問題にはとどまりません。中学受験に英語を導入する学校も出てくるでしょう。大学入試の英語の試験も大幅に変更されて、もっと英語の総合的な力が試されるようになってくる。

小学校の英語教育についてはまだまだ問題点が多く、僕には言いたいことがたくさんある。それは別の機会に語るなり本に書くなどするとして(笑)、日本の教育が荒波の中にいることは間違いない。このような、先を見通すことの難しい時代だからこそ、子供も親も学びつづけることが重要なのです。

そして忘れてほしくないのが、子供の可能性は無限だということ。お父さんお母さん、おばあさんおじいさん、そばにいる大人も一緒に何かを学びながら、学ぶことの楽しさを共有して、その無限の可能性をつぶさないようにしてほしいと思っています。

取材/和久井香菜子 写真/本間正人先生、(c)hanapon1002、(c)NOBU、(c)BRAD / fotolia