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天橋立、股のぞきで脳をだます錯覚のマジック

上下も左右も奥行方向も非対称な立体的な壺を粘土で作って、回転台に乗せて回したら何が見える?

東京ディズニーランドのシンデレラ城の城壁のレンガは、上に行くほど小さくなっている。これは、“錯覚” で城を高く見せているのだ。神奈川大学名誉教授の和氣洋美(わけひろみ)先生によれば、“錯覚”とは決して“うっかり”などではないという。そのイリュージョンのような世界をのぞいてみよう。

2本の線はどっちが長い?

物が不思議な見え方をすることは、日常生活の中でもよくあることだ。たとえば同じ縞模様の洋服でも、横縞(ボーダー柄)を着るか、縦縞(ストライプ柄)を着るかで、やせて見えたり太って見えたりする。このように目から入った情報が実際とは違って知覚されることを「視覚の錯覚=錯視(さくし)」という。

たとえば次の図形を見てみよう。この三角形の中にある2本の点線の長さはどちらが長いだろうか。

答えは「同じ」である。三角形は上に向かってすぼんでいて、遠ざかるように見える。そのため、2本の点線のうち、上の線のほうが下の線より長く見える。これは遠近感が引き起こした「錯視」である。和氣先生は語る。
「錯覚は長い間、世界中で愛されてきたテーマです。たとえば2015 年、『The Dress』という錯覚の画像がネットで大変な話題となりました。人によって青と黒のドレスに見えたり、白と金のドレスに見えたりする画像です。実際は青と黒のドレスなのですが、背景の光に注目して「後ろから強い光があたっている」と脳が判断すると、「影になっているこのドレスは実際にはもっと明るい色に違いない」と脳が補正して白と金のドレスだと知覚してしまう錯覚です」

股のぞきは小さく、縮む

「また、昨年には『股のぞき効果』についての研究で、日本の心理学者がイグノーベル賞を受賞しました(イグノーベル賞はノーベル賞のパロディーとして、人を笑わせてくれる研究に与えられる賞)。

『天橋立の股のぞき』は明治時代に生まれた言葉で、前屈して股の間から天橋立を逆さまに見ると奥行きが感じられなくなり絵のように見えるのですが、『股のぞき』して物を見ると、遠くの物が小さく縮んで見えることを、立命館大学の東山篤規(あつき)教授と大阪大学の足立浩平教授が実験で証明したのです。

このようにしばしば脳は錯覚を引き起こします。錯覚とは、過去の記憶や学習との照合からくる差異であり、正常な視覚認知機能であれば普通に起こりうることです。逆に、視覚認知機能が不良な場合、視覚情報の統合ができずに、錯視を起こしづらい傾向が出てきます」

視覚認知機能検査を発達障害児の早期支援に役立てる

発達障害児は視覚認知機能が不良なことも多いことから、和氣先生は冒頭にあげたような図形で視覚認知機能をテストすることで、発達障害児の診断に役立てようとする研究を進めているという。

この研究についてのくわしい内容は、後日掲載予定です

和氣先生の耳元に揺れる、錯覚を起こしそうな幾何学模様のピアスが印象的でした

2017年3月4日取材

文・写真/yukako 図版・動画/和氣洋美

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