国宝を原寸で見てみれば……デフォルメの妙「風神雷神図屏風」

【連載】国宝の見方が変わる「風神雷神図屏風」

圧倒的な躍動感が見るものを魅了する、俵屋宗達(たわらやそうたつ)の傑作、国宝「風神雷神図屏風」(京都・建仁寺蔵)。そこに描かれた雷神は、恐ろしさを通り越した超ユニークな風貌。その愛嬌のヒミツに迫る。

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週刊『ニッポンの国宝100』創刊号より「風神雷神図屏風」のディテールアップ!

圧倒的な躍動感が見るものを魅了する、俵屋宗達(たわらやそうたつ)の傑作、国宝「風神雷神図屏風」(京都・建仁寺蔵)。そこに描かれた雷神は、恐ろしさを通り越した超ユニークな風貌。その愛嬌のヒミツに迫る。

本来は怒りで真っ赤な顔だった雷神が……

かわいい!

思わずそんな声を上げたくなる、俵屋宗達の傑作『風神雷神図屏風』の雷神の表情。雷神を“かわいく”している要素のひとつは、まるで白粉を塗ったかに思えるような白い顔と、脅かす気満々のおどけた表情だろう。俵屋宗達は、本来、怒りを象徴する赤色だった雷神を、初めて白色で表現した。

風神と雷神は、仏教美術に登場する一対の鬼神で、千手観音の眷属(けんぞく=従者)として絵画や彫刻などに描かれている。いわば脇役の地位に甘んじていたこの二つの神を、俵屋宗達は、一曲二双の金屏風の右端と左端に大胆に配し、その真ん中には、広大な金地の空間を作った。

そのため私たちは、風神・雷神が金色に輝く天空を思いのままに駆ける雄大な姿をイメージすることができる。しかしそのディテールを見てみると、上に挙げたようにかわいい!のだ。

原寸で見ると、見えないものが見えてくる

上に挙げた画像は、週刊『日本の国宝100』創刊号「阿修羅・風神雷神図屏風」の中の特集のひとつ「国宝原寸美術館」のページ。国宝の“一部”を、“原寸”で見せる企画である。

もちろん、全部を原寸で見せるのはムリ。どうしても全部原寸で見たい方は、現地に行って見てください。しかし一部だけなら誌面で見せられる……と、かわいい雷神のお顔とおみ足が、原寸で掲載されている。

思わず踏んで!と言いたくなる左足は足裏の長さ約20㎝。輪郭は彫塗(ほりぬ)り技法で描かれている。これは、淡彩で引かれた線の一部を塗り残して、その周囲に彩色や墨を加えるもの。これによって輪郭線は細かったり太かったりと、何とも言えないファジイな味わいとユーモラスな動きがもたらされている。

思わず“お面”にしたくなるようなデフォルメされた顔は、まさに宗達ならではの表現。なぜ宗達がこんなユーモラスな顔にしたのかは謎だという。

たるんだ胸、ゆるゆるパンツ、でも一番かわいいのは……

この雷神様、筋骨隆々たるガチムチ雷神ではない。胸はたるみ、はいているパンツは今にもずり落ちそうだ。しかしそうした流れるような描線が、ますます躍動感を生む効果を作り出しているという。

ちなみに一番かわいいのは、雷神なのにおへそ。何やらのちの雷マークにも似ているような……。やっぱり国宝は面白い。

週刊『ニッポンの国宝100』(小学館)

*明治大学(東京都千代田区)では9月23日(祝)、国宝講座「国宝の魅力について語る」(聴講無料・事前予約先着800人)が開かれる。古代史研究第一人者の吉村武彦明治大学名誉教授と、縄文から現代アートまで幅広く日本美術を紹介している山下裕二明治学院大学教授が、国宝の魅力について語る。申し込み・問い合わせは明治大学リバティアカデミー事務局 TEL/03-3296-4423まで。

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取材・文/まなナビ編集室 写真協力/小学館

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