ヘブライズムと聞くのは何十年ぶりだろう
たとえば「アレキサンダー大王の東方遠征」とか「塙保己一(はなわほきいち・『群書類従』などの著書がある江戸時代の国学者)」などと聞くたびに、内館さんは“そんな言葉を聞くのは何十年ぶりだろう”と、しびれるような感動を覚えた。
「何か日常生活が遠くに行くような気がしました。私の経験からいうと、日常生活からかけ離れた、むしろ何も役に立たないことを学ぶほうが絶対に面白い。そうすると日常生活の些末なことが、本当に些末なことだったんだってわかるんですよ。
きょうだいで相続でもめているとか、子どもがいうことを聞かないとか、そういう日常的なことって、それを中心に置いて入りすぎると苦しいし、追いつめられる。塙保己一習ってごらんなさい、ヘブライズム聞いてごらんなさいって。兄嫁がどんなに嘘つきだろうが、勝手にやってろって感じになりますよ(笑い)」
内館さんは源氏物語や落語、法律、宗教学など、“日常の役に立ちそうにないもの”こそおすすめだと語る。自身が学んだ宗教学は、英語でいうとscience of religion。宗教を科学(サイエンス)する学問で、日常には何の役にも立たないと笑う。
「あなたって危ない人なの?」と言われたりするが
「断捨離のやりかたとか、ダイエットとか、そういうハウツーやノウハウは書籍やテレビ、ネットでわかりますよね。私はせっかく大学に行くなら、日常から離れたアカデミックな学問のほうが、目のさめる思いをするし、自分を豊かに広げてくれると思うんです」
相撲で博士号を取るべく東北大大学院に行き、無事、まずは修士課程を終えた内館さん。いずれ博士課程の試験を受けるつもりだが、神道をもっと学ばないと相撲はわからないと感じたため、仕事をしながら神道だけを習いに國學院大學に科目履修生として学びに行った。
「神道を学んでるというと、友達に“あなたって危ない人なの?”って言われたりするんだけど(笑い)、全然そんなことはないんですよ。神道という宗教は面白くて、教祖もなければ経典もない。稲作のことから祭りまでとても大らかで日本独特の美しさを感じましたね」
内館さんの好奇心はますます拡大している。
「一つ授業をとると、そこからどんどんひろがってくるんですね。神道を勉強すると、今度は古事記を勉強しなくてはと思うし、祝詞についても知りたいってなる。これは相撲や神道とは関係ないけど、生物も勉強したいと思い始めました。学生の時にはこんな気持ちはなかった。色んな人生経験を経たあとだからこそ、興味が広がるんでしょうね」
(続く)
2017年3月13日取材
文/まなナビ編集室 写真/chihiro.