光琳至芸のデザイン感覚
尾形光琳は1658年、京都の高級呉服商・雁金屋(かりがねや)に生まれた。「燕子花図屏風」に見られる斬新なデザイン感覚と鋭敏な色彩感覚は、呉服商の家に生まれ育った光琳ならではのものだろう。
とくに特筆すべきは、その構図のもつリズム感だ。右隻は根元から花弁までしっかり見せる形で、カキツバタの花の群れがジグザグ状に繰り返し描かれる。左隻はカキツバタの根元をあまり見せないまま、低く斜めにこれまたジグサグ状に描かれる。右隻は遠景、左隻は近景。この大胆な構図が大きな躍動感と遠近感を生むとともに、その間に広がる金色の広大な空間を「水面」に見せる効果をもたらしているのだ。
しかも繰り返されるカキツバタの花群表現には、光琳ならではのアイデアが光っている。下の図版は『週刊ニッポンの国宝100』3号「燕子花図屏風・金印」(小学館)からのものだが、そこには現代でいう「コピペ」手法が見られるのである。
右隻の右から第1、2扇の花群と、第4、5扇の花群はじつは同じ絵柄! また、左隻の第1、2扇の花群と、第2、3扇の花群とも同じ絵柄! 呉服商のボンだった光琳ならではの型紙を使った技法なのだ。しかしそれがよーく見ないとわからない。当時もどれくらいの人が気がついただろうか。
金、群青、緑にも贅を尽くして
色使いも超大胆だ。使われている色はたった3色だけ。箔の金色と、花の群青色と、葉の緑色。しかもその材はとても高価だ。使われた金箔は左右合わせて1000枚超。しかも箔を継ぎ重ねた線が垂直に揃っている。これは揺れる灯火を受けて輝く金の表情をよりドラマチックに見せる工夫だという。ここでも「さすが呉服商のボン!」と合いの手を入れたくなる。
さらに花と葉には高価な鉱物を砕いて作られた岩絵具が使われている。群青は非常に産出量の少ない藍銅鉱(らんどうこう・アズライト)、葉に使われた緑色は孔雀石(くじゃくいし・マラカイト)。砕いた細かさで色の濃淡が生まれるが、光琳な燕子花の花ひとつひとつに微妙なグラデーションをつけ、花の豊潤な表情を描き出している。さすが「呉服商のボン!」である。
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文/まなナビ編集室