中国が統一より金正恩をマシとする戦略的理由
では中国はどうか。もし南北が統一され、統一朝鮮のような国家が生まれた場合、その人口はおよそ6500万人になります。日本の人口は2050年に8000万人まで減少するといわれているので、日本に匹敵する人口を持つ国がいずれ国境を接する隣国に現れることになります。
隣国は小さくて弱いほうがよいというのは、国際社会の常識です。なんだかんだいっても、中国は二つの国家のままにしておきたいのです。核ミサイルを撃たせない方法は100万とありますが、一度統一されたものを二つに割るのは至難の業。中国は南北統一など望んではいません。
もし南北が統一されたとすると、ほぼ確実に中国と対立することになります。その国は核ミサイルを手放すことなどないでしょう。それなら「金正恩のほうがよっぽどマシ」というわけです。金正恩は問題だけれども、外交には善悪も正義もありません。金正恩と、金正恩後を秤にかけて、自国にとっての損得を考えるだけです。
「制御可能な悪」に押しとどめたい
アメリカと中国にとって金正恩は必要悪なのですが、今は必要悪がちょっとおかしなことになっている状況。それをどうやって「制御可能な悪」に押しとどめるか。この一点においては、アメリカと中国の利害は一致しており、揺らがない。今回の南シナ海問題が中国政府中枢の指示で起きたかどうかは不明ですが、いずれにしても、北朝鮮の存続がアメリカ・中国両国の利益と明確に結びついている以上、両国の根本的なスタンスは変わらないはずです。
富坂聰 (とみさか・さとし)
拓殖大学海外事情研究所教授。1964年愛知県生まれ。北京大学中文系中退。「週刊ポスト」「週刊文春」記者を経てジャーナリストに。1994年『龍の伝人たち』で21世紀国際ノンフィクション大賞優秀賞受賞。著書に『中国の地下経済』『習近平と中国の終焉』『間違いだらけの対中国戦略』ほか多数。最新刊は『中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由』。
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