ワクチン接種率の低い日本。感染から難聴になることも

河島尚志東京医科大学教授「子どもの下痢と血便」(その6)

東京医科大学病院で開かれた公開講座「子どもの下痢と血便」の最後に、同大主任教授で小児科科長でもある河島尚志教授は、ワクチンで防げる子どもの病気もあるのに、接種しない保護者が増えている現状を訴えた。

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東京医科大学病院で開かれた公開講座「子どもの下痢と血便」の最後に、同大主任教授で小児科科長でもある河島尚志教授は、ワクチンで防げる子どもの病気もあるのに、接種しない保護者が増えている現状を訴えた。

700人に1人が生涯治らない難聴になる「おたふくかぜ」

「ワクチンで防げる病気はたくさんあることを知ってほしい」と河島教授は語る。

たとえば、おたふくかぜ。

年間約60万人が罹患するが、ワクチン接種率は約40%。死亡数は0~2人、脳炎になる人は30人と、それほど重篤な病気ではないと思われるかもしれないが、罹患した人の700人に1人が難聴になるという。

「おたふくかぜでなった難聴は一生治らないのです。世界では、おたふくかぜの生ワクチンを生後1才と5才前後の2回接種するのが主流。お子さんを難聴にしないために、乳幼児期にぜひワクチンを接種させましょう」(河島教授)

米国統治下の沖縄で難聴が増えた悲劇

5年前に大流行した風疹。かかっても15%~30%は症状が出ないとされるが、脳炎などの重篤な症状になることもある。

妊娠初期の女性で、この風疹に対する免疫のない人が罹患すると、出生した子どもが先天性風疹症候群を発症することがある。

その率は、妊娠10週までに妊婦が初感染した場合、90%の胎児に影響が出るとされる。11週~16週までの感染でも10~20%の胎児に影響があるという。

その症状で最も多いのは難聴だが、そのほかにも、白内障や緑内障、先天性心疾患、低体重、精神発達遅滞などが出てくるという。

1965年、米国統治下の沖縄で風疹が大流行したことがあった。ちょうどベトナム戦争の頃で、アメリカで大流行をしていた風疹を、ベトナム戦争の前線基地であった沖縄に米軍兵士が持ち込んでしまったのである。

その結果、多数の聴覚障害児が沖縄で出生した。それらの子どもたちのために、ろう学校が設立されたという。そしてこの実話をもとに書かれたのが、戸部良也のノンフィクション『青春の記録 遥かなる甲子園 聴こえぬ球音に賭けた16人』。後に『遥かなる甲子園』としてマンガ化され、テレビドラマにもなり、1990年に映画化もされた。

日本は真っ白だったB型肝炎ワクチン接種地図

最後はB型肝炎ワクチンだ。

2016年10月から、0歳児へのB型肝炎ワクチンが公費で接種できるようになった。しかし、B型肝炎は母子感染だけでなく、水平感染も多いので、子どもも大人も受けておいてほしいと、河島教授は言う。

スクリーンに大きく映し出されたのは、B型肝炎ウイルスの接種率を示す図だ。色が濃ければ濃いほど接種率は高い。0歳児の公費接種が始まる前のものとはいえ、日本は真っ白だ。

河島教授は言う。

「肝炎は昔かかった人からウイルスが出て周りの人が感染するケースが多いのです。肝炎ウイルスはいったん消えた風に見えても、形を変えて肝臓中に残ります。全体の接種率を上げることが、社会から肝炎をなくしていくことの一歩なのです」(河島教授)

「ワクチンは危険だ」「効果がない」といった誤った情報に惑わされたり、「お金がない」という理由でワクチン接種を避けたりしないで、ぜひ感染を避けるためにワクチンを接種してほしいと、河島教授は熱く語った。

河島尚志(かわしま・ひさし)
東京医科大学小児科学分野主任教授、東京医科大学病院副院長、小児科診療科長
1985年東京医科大学大学院修了、同大学病院小児科臨床研究医、大月市立中央病院部長などを経て、現在は東京医科大学病院にて小児科診療科長を務める。専門は感染免疫、膠原病、栄養消化器肝臓疾患、川崎病など。

◆取材講座:「子どもの下痢と血便」(東京医科大学病院)

文/まなナビ編集室 医療・健康問題取材チーム 写真/東京医科大学病院提供

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