医療品を開発する“チャンスがある”が価値になる
「オプション価値」は、今現在のキャッシュ・フローを生まない。また、多様な不確実性を持っている。多くは赤字である。しかしそこには可能性がある。
たとえば、通信機器の分野で新しい事業が “できる”、医療品を開発する “チャンスがある”、アジアに工場を作る “可能性がある” など、こうした権利がすべて「オプション価値」となり、これを持っていることが新たな「企業価値」を生み出すという。
急激に変化する市場経済下では、企業は柔軟に戦略を立てなければならない。新規事業に投資するべきかどうか、どのタイミングで投資を行うかは、事業におけるオプションの価値を検討して判断するのが賢明である。
リスクが高いほどオプション価値が上がる
講義の後半は、こうした経営戦略におけるオプション価値を数式で解説。そのなかで印象的だったのが「先が見えないほどオプションに価値がある」ということだ。
たとえば、医薬品メーカーが製品を開発し、生産技術を確立。いよいよ事業化が可能になったとき、3つのオプションが発生する。
〈1〉その事業に投資する(GO)
〈2〉その事業に投資しない(STOP)
〈3〉しばらく様子を見る(WAIT)
そこで、前述のオプション・プライシング・モデル法と最適性の原理を併せた計算ルールに基づくと、この3通りの選択肢にそれぞれどのくらい価値があるのかが割り出せる。
現時点で投資した場合の現金利益を100、事業化に必要な投資コストを105、1年後の現金利益の増減(リスク)20%の場合
〈1〉現時点で投資するとオプションの価値は100-105=-5。
〈2〉現時点で投資しなければオプションの価値は0
〈3〉現時点では投資せず、様子を見るとオプションの価値は6.25
オプションの価値は〈3〉が最大になる。つまり、今すぐ投資はせず、市場の様子を見るのが最適な戦略だと分かる。
同様に、1年後の現金利益の増減(リスク)を30%で計算すると、〈3〉の価値は9.62まで上がる。つまり、1年後に20%の増減が見込まれる場合より、30%の増減が見込まれる場合のほうがオプションの価値は高くなるのだ。