マンガ、アニメ、ゲームのアーカイブは日本の緊急課題

森川嘉一郎明治大学准教授が語るシンポジウム「マンガ文化の保存拠点計画」の意義

2017年11月23日(木・祝)に、明治大学で「マンガ文化の保存拠点計画」と名づけたシンポジウムが開催される。マンガとともに、アニメやゲームのアーカイブ活動に力を入れている各界から錚々たるメンバーを招き、この文化の未来が語られる。そこで、本シンポジウムのコーディネーターを務める森川嘉一郎明治大学国際学部准教授に、シンポジウムの意義と聴きどころを聞いた。

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森川嘉一郎明治大学国際学部准教授

2017年11月23日(木・祝)に、明治大学で「マンガ文化の保存拠点計画」と名づけたシンポジウムが開催される。マンガとともに、アニメやゲームのアーカイブ活動に力を入れている各界から錚々たるメンバーを招き、この文化の未来が語られる。そこで、本シンポジウムのコーディネーターを務める森川嘉一郎明治大学国際学部准教授に、シンポジウムの意義と聴きどころを聞いた。

マンガをどのように保存し、将来へ伝えていくか

マンガが日本を代表する文化のひとつであることは誰もが認めるところだが、世界でマンガ文化の学問研究が進む一方で、その対象であるマンガにまつわる資料を、どのように保存・活用し、将来へと伝えていくか──つまりマンガのアーカイブ化については、多くの問題が横たわっている。

こうした問題について、マンガのアーカイブ化に関わってきた専門家を招き、それぞれの立場から問題点を浮き彫りにしていこうとする試みが、このシンポジウム「マンガ文化の保存拠点計画」だ。

森川先生は語る。

「本シンポジウムでは、マンガ、アニメ、ゲーム、さらには特撮やライトノベルなどにまたがる文化領域のアーカイブを具体的に構想するための機会にしたいと思い、マンガの専門家とともに、コミックマーケット準備会の共同代表の方や、アニメやゲームのアーカイブに関わってきた方をパネリストとしてお招きしました。将来にわたって保存し、活用していくことを考えると、マンガなりアニメなりといったメディアごとに別々に取り組むよりも、複合的な連携体制を目指すべきだと考えています」(森川先生。以下「 」同)

マンガ・アニメ・ゲームは相互影響関係にある

「日本ではマンガ、アニメ、ゲーム、特撮、ライトノベルなどのメディアミックスが盛んに行われていますが、既存の人気マンガをアニメ化するというケースもあれば、企画先行型で同時展開が行われるなど、さまざまな形があります。そのような作品ごとの成り立ちを把握しようとすると、複数のメディアにまたがる全体像を見渡せるようにする必要があります。

さらに、保存すべきは作品だけではないと考えています。例えば、日本でロボットや魔法少女モノが数多く作られ続けてきたのは、玩具メーカーがアニメのスポンサーとなって、ロボットや変身アイテムのオモチャの宣伝として、アニメやそのメディアミックス作品が機能してきたことが大きな要因として挙げられます。だとすると、そのような関連商品も含めて保存しないと、将来、なぜ日本ではロボットや魔法少女が登場する作品がそんなに作られたのかが、わからなくなってしまいます

萌え要素が同人誌から商業誌へ還流する例も

「また、世界で類を見ないほど盛んに行われている同人誌によるファン活動も、日本のマンガ・アニメ・ゲームを支える大きな構造になっています。同人誌で頭角を現し、スカウトされてプロになる作家が数多く現れており、そうしたクリエイターの作家性のルーツを探ろうとすると同人時代の作品を見る必要があります。

同人マンガというと、その多くは人気マンガやテレビアニメを元にした二次的な創作に過ぎない、という見方をする向きもあります。しかし、書店やテレビ、劇場などで現在展開されている作品の絵柄の流行や、いわゆる「萌え要素」などのさまざまなモチーフの成り立ちを調べてみると、かつて同人誌で繰り広げられた実験的な試みが関わっていることが少なくありません。今の日本のアニメを特徴付ける萌え系の美少女の絵柄は、少女マンガの絵柄を使って男性向けのエロティックな同人誌が描かれたことなどが礎になっています。また、「やおい」同人誌で開発されたさまざまなパロディや見立ての手法が、BL(ボーイズラブ)に流れ込んでいます」

アーカイブ化に横たわる問題

「しかし、今それらの作品や関連資料は保存体制が整っていないものが多々あり、それらは、何の取り組みもなされなければ失われてしまう恐れがあります。書店に流通するマンガ雑誌や単行本といった刊本については国会図書館で保管されますが、同人誌はほとんどが納本されていません

さらに、マンガの原稿やアニメの原画類といった、膨大な量の制作資料の保存の問題があります。マンガの原稿は、記念館が立つような一握りの方のものを除けば、作家が他界されたとたんに、ご遺族が個人的に担うほかなくなります。アニメの原画類は、作品に出資した製作委員会に所有権がある一方で、制作したアニメスタジオにしか置き場所がないことが多かったりします。

マンガ図書館などの収蔵機関も、さまざまな課題を抱えています。それらの館ではたくさんの寄贈の提案を受ける一方で、たいていすでに収蔵しているものと重なる部分が多く、寄贈を受けるそばから整理して他館と分け合える体制を構築しないと、希少な出物があっても受け入れる空間がないという状態に陥りがちです。

ここまでお話した問題はあくまでも一例であって、デジタル化をどう可能にするかということを含め、もっと多くの複雑な問題が、アーカイブ化の前途に横たわっています」

米沢嘉博記念図書館。漫画評論家でありコミックマーケット準備会前代表でもあった氏の膨大な蔵書の寄贈を受けて開館した

各界の専門家がさまざまなテーマで討議

「明治大学では、マンガ・アニメ・ゲームの複合アーカイブ施設となる「東京国際マンガ図書館(仮称)」の構想を2009年に公表し、先行施設として米沢嘉博記念図書館を設置しました。当初、最終施設は既存校舎を機能変換することで2014年度に完成させるという想定だったのですが、新築の建物でより本格的に実現していく方向に転換しました。加えて、学外とさまざまな連携体制を構築していくことを、施設計画に反映していくことになりました。

先ほど挙げましたように、アーカイブには数多の問題があり、一つの拠点ではとても解決しきれないという現実があります。そこで、ネットワーク体制の構築を追求し、協同してマンガ文化の保存拠点計画を考えて行こうというのが、本シンポジウムの趣旨なのです。

基調対談として、マンガ・アニメ・ゲームの大型企画展を開催してきた国立新美術館の青木保館長と、明治大学の土屋恵一郎学長との対談を予定しています。その後、テーマ別に、各界の専門家にパネリストとして登壇していただき、語っていただきます。

「『マンガ図書館Z』とマンガミュージアム計画」

デジタル化の問題については、『マンガ図書館Z』で先進的な取り組みをされているマンガ家の赤松健さんに、私・森川と対談する形でお話をしていただきます。

「日本のマンガにおける同人界と商業界の複層構造」

同人誌と商業誌の日本特有の構造、さらには同人誌の保存の問題については、コミックマーケット準備会共同代表で少年画報社取締役でもある筆谷芳行氏と、同準備会の里見直紀氏に語っていただきます。

「マンガ・アニメ・ゲームのアーカイブ」

マンガ・アニメ・ゲームにわたるアーカイブについては、マンガ・アニメのアーカイブの実務に携わってこられた池川佳宏さん(株式会社寿限無)と山川道子さん(株式会社プロダクションI.G.)、ゲームのアーカイブのあり方に関わる調査や研究をされてきた中川大地さん(評論家・編集者)と福地健太郎さん(明治大学准教授)に、とりわけ現場レベルの観点からどのような問題があるのかについて語っていただき、マンガ・アニメ・ゲームをメディアをまたいで複合的に扱うアーカイブ拠点を作ろうとする時、機能や設備、さらには人材とその育成等、考えるべきことについて議論が展開できればと考えています。

「マンガ・アニメ・ゲームの施設間連携に向けて」

そして最後に、実際にマンガ・アニメ・ゲームのアーカイブ施設の設立や運営に関わってこられた方々に、連携に向けた制度設計について検討していただこうと思っています。

これについては、NPO法人熊本マンガミュージアムプロジェクトの橋本博代表、中国・北京大学「明治大学漫画図書館閲覧室」の古市雅子副教授、北九州市漫画ミュージアム研究アドバイザーでもある宮本大人明治大学准教授、京都精華大学副学長で国際マンガ研究センター教授でもある吉村和馬教授をお招きしています。

シンポジウム全体として、理念や原理の確認に留まらず、具体的な課題を洗い出し、できるだけ解決に向けた道筋をつけていくことを目指したいと思っています」

 ***

森川先生の話を聞き、マンガ・アニメ・ゲームのアーカイブ化が世界的にも待たれており、国として取り組むべき問題なのだと痛感する。森川先生は、ぜひ編集・出版に関わる人々、そしてクリエイターにも参加してほしいという。シンポジウム「マンガ文化の保存拠点計画」で、マンガ・アニメ・ゲームの歴史と未来を語ろう。

シンポジウム「マンガ文化の保存拠点計画」

日時:11月23日(木・祝)13:00~
定員:入場無料
場所:明治大学・駿河台キャンパス(JR中央線・総武線、東京メトロ丸ノ内線/御茶ノ水駅 下車徒歩約3分)
主催:文化庁・明治大学
詳しい情報はコチラから↓
http://archive.a.la9.jp/sympo2017.html

 

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取材・文/まなナビ編集室

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