まなナビ

プログラミング教育必修化に親はどう備えればいいか

親子同伴の子どももいれば、友達どうしで参加している子どもも。

2020年度以降、小学校から必修化されるプログラミング教育。「小学生が2時間で体得したゲームのプログラミング法」に引き続き、東京理科大学が毎月開催している子ども向けプログラミング講座「小型PCで学ぶ小中学生のためのプログラミング対策講座」の取材レポートを掲載する。

ボールを消火栓に変えてみる子も

東京理科大学・神楽坂キャンパスの森戸記念館。この日、8人の子どもたちを迎えたプログラミングの講座は、山あり谷ありの約1時間半を経て、やっとゲームの完成にこぎ着けた。さっそく自分で作ったゲームで遊び始める子、形にしたばかりの自分のゲームをもっと改良しようとプログラミングを見直す子など、会場となった部屋の空気は前にも増して熱くなっていった。

「こんなのカンタン過ぎ! もっと(コウモリの)スピードを早くしなきゃ」

ずいぶん早くゲーム作りが進んでいる子がいると思ったら、すでに一度、同じ講座を受け、今回、2回目の参加だった。前回、ゲームはひと通り作り終えており、この日はその改良に取り組んでいた。ジャマするコウモリの動きが遅過ぎて、簡単によけられて面白くない。コウモリを動かすプログラム中の数字をいじると思ったようなスピードにできた。

別の子は、この日、作ったばかりの「ボールキャッチ」をさっそく改良し始めた。落ちてくるボールをグローブで受ければ得点になるというゲームだが、この子はボールの代わりに消火栓の画像を使い、しかも、その動きがジグザグになる仕掛けを加えた。空から黒光りした消火栓がガサガサ落ちてくる。まるでゴキブリだ。作った当人も「わー、キモチ悪りぃー」と言いいつつも、実はけっこう気に入ったようで楽しそうに遊んでいる。

その向かい側の女の子は、ボールの両脇に2匹の虫を加えた。ボールをグローブでキャッチすれば得点になるが、虫に触れたら減点になる。ボールと同じプログラムのブロックを使い、画像を虫に置き換え、得点をマイナスにすれば良い。工夫しだいでゲームはがぜん面白くなっていく。

「ええっとねえ、今度は宝箱にタッチしたら、(ハンターの)子どもがいっぱい生まれるようにしたいんだけど……」。また別の子は、ゲームを自在に改良できるとわかり、どんどん発想を膨らませていく。
「うー、できないことはないけど……」。思いもかけない要望に講師は頭を抱える。かなり複雑なプログラムになるようだ。

説明する大学生も腰をかがめて子ども目線で

「パソコンやタブレットに慣れさせたいと家で使わせているんですが、YouTubeばっかり見ている。受け身ではなく、”作る側”の人間になってほしいと思いましてね」。“消火栓ゴキブリキャッチ”を作った子のお父さんだ。「キモチ悪りぃー」と言いながらも遊んでいる子を見ると、どうやら思惑は当たったようだ。

「でもね、さっき話したら、『これが終わったら、家でホンモノのゲームしていいでしょ?』っていうんですよ(笑)。楽しくやっているように見えて、やっぱり当人にとっては(この日の講座は)勉強なんですかねえ」とため息まじり。「ま、それでいいのかと……(笑)」

いつでも子どもは大人の思った通りにはならない。だが、このお父さんのように「それでいいのだ」と見守るのが親だ。天才バカボンのパパも、我が子を思ってそう言ったのだ。きっと。

ゲームは悪者ではない

講座を企画・運営する有馬さん

講座を主催した有馬さんはこの日の意図をこう語っている。

「ゲームはよく悪者にされますが、全然、そんなことはありません。ゲームはプログラムから成り立っています。子どもたちには、大好きなゲームを通して、プログラミングの楽しさや大切さを体験してほしい。数十年後、ロボットとAIで人間の仕事がなくなるようなことが言われていますが、ロボットを動かすのも、AIを動かすのもプログラム。それを作る人の仕事は決してなくなりません」

「スマホばっかり観てないで、勉強しろ!」。そう子どもにいい続けた我が姿勢を振り返り、あいつにも小さな時にこのような講座を受けさせていれば、と少し反省した。この講座では、遊びだけでも、勉強だけでもない、コンピュータとのもうひとつのつきあい方を見つけられそうだ。子どもにとってはもちろん、親にとっても。講座後、子どもたちは「Raspberry Pi」とともに自分の作ったゲームを持ち帰ることができる。この日の興奮も持ち帰ってほしい。

が、何とか無事に終わりそうだとホッとしていると、その一瞬の安堵をあざ笑うかのようにまた子どもの声が……。

「ねえねえ、マインクラフトやっていい?」

自分の作るゲームをああしたいこうしたいと講師を悩ませていた子だ。講師がノートとペンまで取り出し、デスクに張り付くように懸命に考えている間、自分はちゃっかりコンピュータに入っている既存のゲームを見つけ、それをやりたいと言い出したのだ。
キミなあ、いま、講師のオニーサンが、キミの無理難題をかなえようと懸命に考えているんじゃないか! そう言いそうになったが、子どもたちのはしゃぐ様子を見てハッと口をつぐんだ。

小学校ではプログラミングの授業が始まろうとしている。いまからコンピュータに触れさせたいと思っている親は多いに違いない。子ども向けのプログラミング講座は、この東京理科大をはじめ、すでにいくつかの大学が企画し、今後も増える見込みだ。プログラミングを日常的に使っている研究者や学生が講師なので、内容は楽しく意外に実践的、しかも丁寧に教えてくれる。勉強もいいけどまずは体験と実感を。教育熱心な親たちもきっと「それでいいのだ」と納得するだろう。

〔講演中の今日イチ〕

ゲームは悪者ではない。楽しみながらプログラミングを覚えるにピッタリのツール。

〔受講生の今日イチ〕

親御さんの願いは、「コンピュータでYouTubeばっかり見ているような受け身ではなく、”作る側”の人間になってほしい」

〔前の記事〕小学生が2時間で体得したゲームのプログラミング法

取材講座データ
小型PCで学ぶ小中学生のためのプログラミング対策講座~ゲーム作りを通してプログラミングを楽しく学ぶ~ 東京理科大学公開講座 2017年1月15日

2017年1月15日

文・写真/本山文明

〔関連講座〕小型PCで学ぶ小中学生のためのプログラミング対策講座