マーニュ先生先生は語る。
「私は日本語と英語、ロシア語を話しますが、話す言語によって自分の性格が違うと感じます。それを全部ひっくるめたのが私。ロシア語を忘れてしまった子どもたちは、日本に戻って、生活に慣れ、友達を作り、授業を理解するのに、ロシア語の知識は邪魔だったのでしょう。人間は、生活しやすい方、自然に簡単な道を選ぶようにできています。そのため、ロシア語の知識を忘れる必要があったのです」
言語の知識が何かの理解を邪魔することは大いにありそうだ。筆者のトルコ語学習がスペイン語の知識で邪魔をされているように。子どもたちにとって、ロシア語は忘れてしまった方が都合がよかった。だから積極的に忘れてしまったらしい。小さいうちに語学を学んでも、使わなければすっかりなくなってしまうのだ。語学の知識とは、なんと儚いものだろう。
フランス語が20進法を使って数を数えるわけ
語学の勉強は厳しいのだが、先生は言う。
「語学は、好きなことから勉強すればいいですよ。お料理が好きな人なら、レシピから。歌が好きなら、シャンソンなどの音楽から。どんな勉強法が合うのはか、人によって違います。コミュニケーションが好きな人は早くしゃべりたいでしょうし、とことん文法を学ぶのが好きな方もいます」
記者は、歌で英単語を覚えたクチだ。机に向かって勉強するのが苦手だが、歌の歌詞なら苦もなく辞書を引いて覚えることができた。今でも「私の英語の先生は、マイケル・ジャクソンとガンズンローゼズです」と言って回っている。
「大事なのは、続けること。外国語はすぐにぺらぺらにはなりません。少しずつでも『もうちょっと』『いつかここまでは』と、とにかく続ける気持ちが大切です」
継続は力なり……である。記者も長時間、英語と向きあってきた。英語圏への留学経験がないので、とにかくわからないことは山ほどある。自分の語学スキルは遅々として上がらず、亀のようにのろい歩みにウンザリして「もう英語なんかいいわ!」と思うこともよくある。そのやる気を蘇らせてくれるのはいつだって「通じる喜び」だ。旅行先で、ネットで、外国人たちとたわいもないやり取りをしたとき、それまでの膨大な苦労が少しだけ報われる。そして「もう少しやろうかな」という気になってくる。語学の勉強は、たくさんの努力と、ほんのちょっとのご褒美の繰り返しなのだろう。長く勉強を続けるには「ごほうび」を考えておくことも必要なのかもしれない。
ところで記者は大学の第二外国語でフランス語を受講していた。成績はさっぱりで、とにかく難解だった記憶しかない。特に数の数え方だ。
例えば98は、
quatre-vingt-dix-huit
4×20+10+8
だ。
なぜ、こんなややこしい言い方をするのか。
「でも日本語でも同じですよ。例えば、217なら、2×100+10+7という言い方をしています。でも、日本人でわざわざそんな計算をしがら話す人はいません。私も、フランス語で数を数えるとき、計算はしません。『不思議な言い方をするな』と思っても、その『不思議』な気持ちは忘れて、おもしろいと思って何度も口に出しましょう。オートマチックに口から出るようにした方がいいんです」
数の数え方は、どの言語でも、もっとも使う割には覚える難易度が高いように思う。こればかりはとにかく慣れるしかないということか。
「20の倍数を使う考え方は、ケルト文化の影響と言われています。彼らは、手と足の指を20本として、それを1単位にしたんですね。それがフランス語に残っているんです。スコットランドでも20進法を使って数えています。フランスでは20進法を使うのは80(quatre-vingts)と90(quatre-vingt-dix)くらい。同じフランス語でも、スイスやベルギーでは80(huitante*スイスのみ)、90(nonante)と言います」
数え方にケルト文化の影響があるとは面白い。語学は、バックボーンを知ると理解が深まるものだ。その上で、やはり反復練習は欠かせないのだがただ「難しい、不思議だ」と思ったままトライするのとは、気持ちがまったく違いそうだ。
ジャニック・マーニュ先生は今春帰国される。歌うようなフランス語、身振り手振りを交えた授業、そして深い教養に裏打ちされた教えは、いつまでもみんなの心に残っている。マーニュ先生、長い間、本当にありがとうございました。
〔今日の名言〕「語学は好きなことから勉強しましょう!」
〔大学のココイチ〕共立女子大学博物館では、日本の服飾資料を収集している。博物館や美術館を併設している大学は多くはない。通常入館は無料なので、ふらりと立ち寄ってみるのもいい。
〔おすすめ講座〕楽しくわかりやすいフランス語ベーシック会話
取材講座データ | ||
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ジャニック・マーニュ先生と発音・文法を勉強しよう | 共立アカデミー | 2017年2月18日、3月4日、3月18日 |
2017年2月18日取材
文/和久井香菜子 写真/まなナビ編集部