よく「語学の習得は早いうちがいい」と聞く。大学時代に単位修得の一番のネックになるのが第二外国語だが、社会に出てから語学の必要性を実感して「もうちょっとがんばればよかった」と思う人も少なくないだろう。しかしマーニュ先生は「18才でも50才でも、語学を始めるなら同じです」と語る。
1年でロシア語を忘れた子どもたち
「日本人のお友達で、ロシアに住んでいたご夫婦がいます。子どもたちをロシアの保育園、幼稚園から小学校まで通わせて、彼らが8〜10才くらいの頃に日本に戻ってきたんですね。そうしたら、半年から1年で、子どもたちはすっかりロシア語を忘れてしまいました。今、私が彼らにロシア語を話して聞かせても『なにか美しいことばを話しているな』という表情で聞いていますよ。でも理解はできないようです」
せっかく苦労して習得しても、忘れてしまっては元も子もない。どうしてこのようなことが起こるのだろうか。
「私が久しぶりにフランスに帰ったときのことです。数年ぶりに兄に会い、思わず、Nice to meet you! などと、なぜか英語で話しかけていました。ずっと日本にいたので、つい日本人の感覚になっていたようです。兄の外国人顔を見たら『英語でしゃべらなきゃ』という気になってしまって」
お兄さんは「なぜ妹は俺に英語で話しかけるのだろう」という顔をしながらも、英語で返事をしていたのだとか。思わず笑ってしまうエピソードだが、こうした「脳の勘違い」は筆者にも経験がある。
記者は、英語の専門学校に行っていたので、一番楽に話せる外国語は英語だ。その後スペイン語を習い、韓国語とトルコ語をかじった。その、韓国語やトルコ語で話そうと思うとき、どうしてもスペイン語が出てきてしまうのだ。
「『少し』ってトルコ語でなんて言うんだっけな……ウンポコ……いやそれはスペイン語だし! えーと、ポキット……もスペイン語だから!」
という具合に、うんうん考えて話そうとすると、真っ先にスペイン語が出てくる。面白いことにそれは英語では起きない。どうやら脳みそが「ちょっと考えないとしゃべれない言語」として、スペイン語と韓国語とトルコ語をぜんぶ一緒くたにしているようなのだ。