動画と画像は外務省の許可を得て掲載しております。
貧困とは社会的圧力で能力が発揮できない状況
7月、外務省はSDGsの知名度向上のために、タレントのピコ太郎が登場するPR動画をYouTubeで公開した。それが冒頭の動画だ。さらに7月17日には国連本部で行なわれた日本政府主催のレセプションに、ピコ太郎が岸田文雄外相とともに登場してPPAPの替え歌を披露した。
こうした取り組みをしないと関心を持たれないくらい SDGsは、まだまだ分かりにくいテーマだ。上智大学の田中治彦教授による「SDGs(持続可能な開発目標)-貧困・社会的排除と居場所論」講座は、 >“SDGs” と “貧困” と “居場所” の関連性を説くものだ。(別記事「職場で評価されず家では邪魔者、“居場所”ある?」)
“居場所” について、田中先生は3つのポイントを挙げた。
〇>空間:単なるスペースではなく、リラックスできる空間をいう。そのためには次の “関係性” の要素が大切だ。
〇関係性:リラックスできる空間とするため、安心できる人間関係があるかが大事。
〇時間軸:自分の将来が展望できるかどうか。若い人は10年後の自分が想像で>きるかどうか。中高年であれば定年後の自分が想像できるかどうか。
田中先生は、“居場所” は、貧困や社会的排除から逃れるために必要なものだという。では “貧困” とはどういう状態をいうのだろうか。かつては、物がない、金がない、食べ物がないなど、“欠乏”した状態を “貧困” と私たちは呼んでいた>。
ところが、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)名誉教授のジョン・フリードマン(2017年6月逝去)は、「貧困とは社会的な力のはく奪」だと唱えた。本来、人間が持っている能力が社会的圧力によって狭められ、そのために能力を発揮できない状況を “貧困” と定義したのだ。
食べ物がないから食べ物をあげる、では解決しない理由
社会的圧力で能力が発揮できない状況とは、具体的にどういう状況だろうか。フリードマンは以下の8つを貧困の要素として挙げた。
(1)資金がない。
(2)労働と生産道具がない(生活を立てるための手段、たとえば>仕事や畑などがない)。
(3)情報がない(生活保護の仕組みなど、貧困から助けてくれる情報が得られない)。
(4)知識と技能がない(学校教育や職業訓練を受けていない、受けられない)。
(5)家族や地域社会などのネットワークがない(家族や社会が頼り>にならない、助けてくれない、遠く離れている)。
(6)助けてくれる社会的組織がない(労働組合、NGOなどの助けがない)。
(7)生存に費やす時間以外の余剰時間がない。
(8)防御可能な生活空間がない(プライバシーの欠如も)。
「食べ物がな>いなら食べ物を与えればいい、お金がないならお金を与えればいい、ということでは貧困は解決しないのです。お金は使ってしまえばなくなるし、ずっと与え続けなければな>らなくなる。しかし、そのお金をいかして学校に行ったり技能を身につければ、生活手段が得られます。このように、この8つの欠如を総合的に補っていくことが大切です。なかでも、学校や職業訓練システム、社会的ネットワーク、余剰時間、生活空間はまさに、人が認められるために必要な“居場所”と言い換えてもよいものです」(田中先生。>以下「 」内同)
こうしたものは、自分の努力だけで獲得できるものではない。エンパワーメント(個々人が能力を開花させ、貧困から脱して社会を変革するという考え方)を実現するためには、社会全体がサポートする仕組みが大切だ。連帯>したり、アイデアを語ったり、社会に貢献したりできる、高次の “居場所” ができ、人の能力が開花してこそ持続可能な社会が見えてくる。援助をするだけ、受けるだけで>は社会は持続できないところまで来ているのだ。
ここに、講座タイトル「SDGs(持続可能な開発目標)-貧困・社会的排除と居場所論」にある “SDGs” と “貧困” と “居場所” がつながった。“SDGs(エスディージーズ Sustainable Development Goals)”とは、2015年の>国連サミットで、世界のリーダーにより採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ(2030アジェンダ)」の具体的内容だ。
17項目の目標は「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」「すべての人に健康と福祉を」「質の高い教育をみんなに」「ジェンダー平等を実現しよう」など。国連がこの言葉を2030年までの世界の>目標としてからは、社会を理解するためのキーワードとして注目を集めている。すべての国々に普遍的に適用される17の目標に基づき、各国は今後15年間、誰も置き去りにし>ないことを確保しながら、貧困に終止符を打つための取り組みを進めていくことになる。冒頭のピコ太郎の動画はその一環だ。
2030年、世界はこの目標を達成できるだろうか。それとも格差社会がもっと広がり、貧困問題はより深刻化しているだろうか。そこに私たちの居場所はあるだろうか。
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職場で評価されず家では邪魔者、“居場所”ある?
取材講座:「SDGs(持続可能な>開発目標)-貧困・社会的排除と居場所論」(上智大学公開講座)
文・写真/奈良 巧