テリー伊藤『お笑いは北朝鮮』みたいな大学院の論文を

テリー伊藤流「まなび」主義その6

「学びたいと思っているのに始められないのは、学ぶことへの敷居を高くしちゃってるんじゃないかなあ」と慶應義塾大学院(湘南藤沢キャンパス)でのキャンパスライフも4か月めに突入した、テリー伊藤(68才)は言う。彼が目論む新しい卒論は、かつての著作に匹敵するような“面白い”もの。「大人が学ぶのって、趣味の世界じゃないですか。本屋さんや図書館に行くのと近いと思いますよ。自分が好きで、本を読むのが苦にならないことをやればいいんじゃないでしょうか」

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「学びたいと思っているのに始められないのは、学ぶことへの敷居を高くしちゃってるんじゃないかなあ」と慶應義塾大学院(湘南藤沢キャンパス)でのキャンパスライフも4か月めに突入した、テリー伊藤(68才)は言う。彼が目論む新しい卒論は、かつての著作に匹敵するような“面白い”もの。「大人が学ぶのって、趣味の世界じゃないですか。本屋さんや図書館に行くのと近いと思いますよ。自分が好きで、本を読むのが苦にならないことをやればいいんじゃないでしょうか」

“いい番組を作る”より数字が欲しい

テリー伊藤が11月に初めて研究室で発表したのは、毎日、自然に一定時間触れると、人間にはどんなポジティブな反応がおこるかということだった。「自然が教えてくれそうな8の教え」と題し、「流れ星に願いを」や「月明かりのデートは恋の手助け」なども発表した。20分間の研究発表に対して先生からはダメ出しを受けたが、外部の教育関係者からは高評価も受けた。とある小学校の校長先生が、テリーの研究に関連し、700人の生徒にアンケート調査をしてくれると申し出たほどである。

テーマは悪くないと感触を得たのなら、あとは研究を深堀りするかと思いきや、ここでテリーは、彼らしい観点に立ち返る。

「ふとね、この研究発表、本にしてベストセラーにしたいなって思ったんですよ。学術書にするんじゃなくて、ベストセラーになるような論文を書きたいんですよね。

やっぱりぼくはテレビマンだから、“いい番組を作る”ということより数字が欲しいんです。書く以上は売れるものを書きたいわけで。先生からすると、そんなのパフォーマンスだと反対するかもしれないけど、ぼくは研究発表でもみんなをあっと言わせたいんですよね。

で、冷静に考えると、ぼくが発表したテーマはなんか普通で、あっとは言わせられないレベル。もうひとつ考えていたテーマもちょっと弱い。ああ、おれ小さくまとまりすぎてるなって気づいたんです」

その時、ある言葉が蘇ってきたという。

「今年8月、ぼくが大学院への入学が決まった時に、慶應卒の広告代理店の連中とみんなで、六本木で飯食ったんですよ。みんな30才くらいでね。そこで彼らから言われたんです。
『テリーさん、大学院で修士論文出すなら、普通の修士論文じゃなくて、お笑い北朝鮮みたいな、ああいうのやってください』って。

その時に、ああなるほどなと思ったんです。お笑い北朝鮮を出した時、出版界に革命を起こそうと思っていたなあって思い出しました」

“お笑い北朝鮮”こと『お笑い北朝鮮 金日成・金正日親子長期政権の解明』(コスモの本刊)とは、1993年に出版されたテリーの処女作だ。北朝鮮問題を笑いの対象として書いた衝撃の書として知られる。

当時すでに天才テレビディレクターとして名を馳せていた彼は、同著で「もっとも自分に影響を与えた偉大な演出家は金正日書記(※現在の第3代最高指導者・金正恩の実父)」とし、その理由を、国中まるごと演出するスケールの大きさだと述べている。

《私のようなテレビ番組制作者はいつも他局の番組を気にしている。ところが金正日書紀のすごいところは他のチャンネルなど気にもしていない。それどころか他のチャンネルが映らないようにしてしまっている。それがすごい》

そして国をまとめるために、共同の敵を常に作り続ける努力をしているとし、その姿勢を「類稀なる発想。心憎い演出」と大まじめに絶賛しユニークな分析を繰り広げているのだ。

ビートたけし、長嶋茂雄……天才の共通点

金正日を天才と評し、ビートたけしや長嶋茂雄、勝新太郎、黒澤明といった、テリーが心酔する日本を代表する“天才”たちと比べて共通点がある、とも述べている。

テリーが調べる天才の共通点は以下——

●攻めている時は強い
●のっている時は強い
●攻められると弱い
●ムラがある
●わがまま
●飽きっぽい
●女好き
●おしゃれだ
●時代の最先端を行こうとする
●強気のふりをしているけど、実は寂しがり屋だ
●妙に保守的なところがある

過激な演出家として注目され始めていたテリーが、北朝鮮の演出力がすごいと独自の視点で解剖する同著は大反響を呼び、その年のベストセラーにもなった。

「このまま普通に研究していけば論文も書けるだろうし、卒業もさせてくれるかもしれないけど、もっと大振りしていかないとなって。せっかく楽しもうとこの年で大学院に入ったんだから、修士論文に本格的に取り掛かる前までは、いろいろな角度の大振りをして、面白いことをやっていきたいなって思っているんですよ」

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