「この隅っこの写真に写ってる人の職業は?」
「1月下旬から春休みに入ってます。でも新年度の履修届(シラバス)もすぐに出さないといけないから、休み中だけど研究室に履修相談に行こうと思ってるんです。この方向性で来期も行くべきかどうか、もう一度考えようと思って…」
頭をかきながら苦笑するテリー伊藤。担当教授から「テリーさんどうするの。このままだと論文としての落とし所がないよ」と言われていることも響いている。
「先生からは、第1回目の発表以来ずーっと言われてることなんですけど(苦笑)、たしかにそうで。自然に触れたら何人がどう癒され、どうポジティブになったかというデータを取ったとしても、結論がみなさん月を見ましょうっていうんじゃ、論文としては弱い。どうしたもんか、完全に壁にぶつかってます(苦笑)」
奇才テレビマンとして知られ、コメンテーターとしても唯一無二の存在として活躍する彼にとって、“伝える”のはお手のもの。だが、学術的な発表となると、なかなかハマらないのだという。
「たとえば(たまたま目の前にあったアパレルブランドのパンフレットを手に取り)このシャツのことを伝えるとします。 テレビなら、こういうシャツですって見せて、デザインやらコストパフォーマンスやらその特徴をあれこれ伝えるのが、王道というか正解なんですよね。
でも研究発表する場合は、この、シャツが載っているページの端っこにたまたま飾りとして入っている古い写真についても“ここに写ってる人たちの職業は?”から始まり、収入は? 家族構成は? 素行は? と聞かれるし、バッグが写っていたら、何革? 何才の牛? 性別は? 牧場の写真は? 飼い主はどんな人? オスとメスはどちらがいいの? と質問されるんです。メインのシャツだけじゃない、これまで自分がさらっと流していたようなことまで分析するのが学術。突っ込まれますけど、そうやって捉える発想がすっごく面白いなって、感心しちゃうんですよ」
がっかりするのは3時間だけ
ここでひとつの疑問が浮かぶ。
「大学院で学ぶ」ことについての強い意欲は十分伝わってくるが、彼にとって、年をとったことへの不安はないのだろうか。
大学院だけでなく、テレビの現場でも彼が最年長ということが増えているのは間違いない。若いクリエイターたちがどんどん育っていく状況で、センスが鈍ったり、アイディアが枯渇するのではという焦りは…?
「年云々って、考えたことないですよ。
企画が通るかどうかはセンスの問題でしかなくって、昔から。だから、もし自分じゃないものが採用された時は、“今流行のを追ってるだけじゃん、俺の方が面白いのに”って思うだけ。たまたま採用側とのセンスが合わなかったって思う。だから必要以上に落ち込んだこともないんですよ。3時間だけがっかりする(笑い)。ちょうど昨日も企画が通らなかったんだけど(笑い)、打たれ強いのかもわかんない。
むしろ、この年齢にならないとできないことがあるっていう方が楽しみですね」
倉本聰も五木寛之もあの年齢になったから
「たとえば、倉本聰さん(83才)が昨年脚本を書かれたドラマ『やすらぎの郷』(テレビ朝日系)も、あの年齢になったから作れたと思うんです。五木寛之さん(85才)だって、『青春の門』(’69年から『週刊現代』で断続的に氏が連載している小説)を書き始めた当初は、今みたいな宗教本(近年の代表作『親鸞』は70才を過ぎてから執筆)を書けるとは思ってなかったはずですよ。だから俺も68になるとこういう景色が見られるんだ、じゃあここで面白いこと考えてやろうって思ってます。
要は、団塊の世代の中で面白ければいいのであって、そもそも若い人と肩を並べて競うという発想は全くないんです。
ファッションだってそう。若い人は若い肉体があるんだから、10〜20代の青年はタンクトップが一番似合うわけですよ。若い女の子だってノーブラが似合う。それだけで男は喜ぶ。これは理屈じゃないじゃない。肉体が服より勝ってるという事実なんですよね。逆に60すぎた中で着るファッションというのもある。年齢が違うってことは、言ってみればそれだけじゃないかなって」
「昔の音楽は良かった」というけれど
「よく“最近のテレビはつまらない”と言う人がいるじゃないですか。テレビのせいにしているけど、実はテレビがつまらなくなったんじゃなくて、自分の感性がついていけなくなってるのかもしれないと思うんですよね。
“昔の音楽は良かった、今のはみんな同じに聞こえる”っていうのも、音楽が悪いんじゃなくて、聴く側の感性がついていけてないからなんですよ。
でもそれは仕方ない部分もあるんです。テレビも音楽も若い感性で作られるものだから。感性って、恋をしていたころが一番豊かなわけですからね」
ハッと突く鋭い指摘。心理学を専攻したことで、分析にキレが増した!? と思いきや、最後に意外な一言もつぶやいた。
「実をいうと心理学がこんなに理数系だと思わなかったんですよ。なんか最近、哲学の方が向いているんじゃないかと感じてきて。新学期からは授業をどうしようかと思っている、そんな春休みなんです(笑い)」
テリーの学びの旅路はどこまでもフレキシブルだ。
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取材・文/辻本幸路(まなナビ編集室) 撮影/chihiro.