「現代最高のホームズ」とジェレミー・ブレットは『マイ・フェア・レディ』
1984年、「現代最高のホームズ」とされる、ジェレミー・ブレットが現れた。グラナダ・テレビ制作『シャーロック・ホームズの冒険』(1984~1994年)だ。
風貌や立ち居振る舞いは、まさに原作からイメージするホームズそのもの。そのうえ小道具においても、今までのどのホームズ物よりも原作に忠実だった。たとえばパイプについても、原作当時の柄の真っ直ぐなパイプをふかしている。
ブレットは、ホームズがあまりにはまり役すぎて、それ以外の映画が思い浮かばないが、 じつは31才の時に出演した『マイ・フェア・レディ』(1964年)ではイライザ(オードリー・ヘプバーン)に恋する青年貴族フレディを演じている。
ブレットは心臓病で、1995年に61才の若さで亡くなり、あの伝説的なホームズを見ることはできなくなった。
ホームズは永遠のアイコン
その後も、映画やテレビドラマで多くのホームズが現れた。ロバート・ダウニー・Jrの『シャーロック・ホームズ』シリーズなど有名なものもたくさんあるが、なかでもちょっと変わったホームズ映画が2つ紹介された。
ひとつは、1987年の『帰ってきたシャーロック・ホームズ』。モリアーティの弟の復讐によって、未知の細菌に感染したホームズが、治療法を未来に求めて冷凍状態となり、約60年後、現代に復活する、というSFめいた映画である。ホームズ役はマイケル・ペイントンだ。
もうひとつは、93才になったホームズが出てくる『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』(2015年)。ホームズ役はイアン・マッケラン。『X-メン』のマグニート役といえば、思い浮かぶ人も多いだろう。引退して養蜂家として余生を過ごしていたホームズが未解決事件に挑戦する話である。
そして最新のホームズが、シーズン4が先週からNHK BSプレミアムで始まったカンバーバッチ演じる『シャーロック』だ。舞台を現代に移し替えてはいるが、こうした数々のホームズの進化形に位置するのがこのカンバーバッチ版『シャーロック』かもしれないと、中西先生は語る。
ワトソン博士は原作でも第2次アフガン戦争(1878~1881年)に軍医として従軍し、負傷して帰還した人物と描かれているが、カンバーバッチ版『シャーロック』でも、アメリカ同時多発テロ後のアフガニスタン紛争(2001~2014年)で負傷した軍医として描かれており、原作を驚くほどうまく現代に移し替えている。
この最新のホームズを、過去のホームズと比べながら観るのも、大きな楽しみとなるだろう。ホームズは映像文化がある限り、永遠のアイコンなのだから。
(続く)
(次回の記事「シャーロックのパイプ、鹿撃ち帽…100年かけ作られた像」は7月22日掲載予定)
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文/まなナビ編集室