まるで弁護士事務所のようなオフィス、221Bが221Aに
実際に映像の中でしゃべるホームズを最初に演じたのは、1929年『シャーロック・ホームズ』のクライヴ・ブルック。ただし当時すべての映画館がトーキーを備えてはいなかったので、この映画はサイレントとトーキーの両方が作られた。つまりブルックは、サイレント映画で最後のホームズ役者とも言える。
トーキーになると、ますますホームズ映画は増えていく。その中でもこれは面白い!と思ったものを。
レイモンド・マッシーがホームズを演じた1931年の『まだらの紐』には驚いた。ホームズの事務所がまるでどこかの弁護士事務所のように広く、女性が数人立ち働いていて、タイプを打つ音が響いている。そんなオフィスに、マッシー演じるホームズがパイプをくわえ、ガウンを羽織って入ってくるので、大きな違和感がある。また、なぜかベイカー街221Bとあるべき番地表示が107になっているが、その理由は分からないという。
1932年にクライヴ・ブルックが再びホームズを演じた『シャーロック・ホルムズ』では、番地表示が221Aとなっている。ちなみにコナン・ドイルは1930年に死去しているから、原作者がこうした現状を知ってどう思ったかはわからない。
「生きて呼吸する最高のホームズ」と呼ばれた
1939年、見るからにホームズ、という役者が現れる。南アフリカ生まれのイギリス人俳優、ベイジル・ラスボーンだ。後年、ジェレミー・ブレットが出てくるまで、ラスボーンは歴代最高のホームズと激賞された。面長で目力があり、パイプが似合う。中西先生によれば、彼の演じるホームズ・シリーズの中には、時代背景を反映して、ドイツを中心とする枢軸国との戦いを描いたものもあるという。
もう一人、史上最高のホームズとの評価を分け合ったのが、ロンドン生まれのピーター・カッシング。講座で紹介されたのは、1959年の『バスカヴィル家の犬』。「生きて呼吸する最高のホームズ」と呼ばれ、イギリスのシャーロックホームズ協会が唯一公認したホームズだったという。
007シリーズでボンドを演じたロジャー・ムーアもホームズを演じた。また、旧ソ連でも1970年代~1980年代にかけてホームズ物が作られ、ワシーリー・リヴァーノフというロシア人俳優が演じたホームズは、本場イギリスでも好評だったらしい。