畑違いの研究室に本を借りに行くことはない
─大学図書館の問題といいますのは?
千田:海外の大学では、大事な本は大学の中央図書館に収められている。だから、理系の学生も哲学や歴史の本を手に取る機会がある。しかし日本の大学は、中央図書館より学部の図書館のほうが充実していたりする。これは本末転倒です。そのうえ、大事な本は学部の図書館どころか、研究室にあったりするんですよ。
─たしかに。学生時代にある本を図書館で借りようと調べると、これこれの本は〇〇研究室に所蔵されています、といわれたことがあります。
千田:で、その研究室に本を借りに行きましたか?
─いえ、行かなかったと思います。
千田:そうでしょう? 畑違いの研究室に、本を貸してもらいに行くことなどほとんどない。仮に隣の研究室であっても、「何に使うんですか?」とか聞かれたりしたらめんどうだから、借りに行かない。僕はこの問題が、日本で学際的な研究が発展しない理由のひとつになっているんじゃないかと思っているんです。
僕は一番たいせつな学問は哲学だと思っている。哲学は「人間はどう生きるか」を考えるもの。そこから、文系と理系に分かれていく。だから、文系と理系はけっして正反対のものではなくて、哲学を通して隣り合わせのものなんです。そうした思想がないから、学部図書館を作ったり、研究室に大事な図書がしまわれて、研究室外の人の目に触れないでいる。まず図書館から変えよ、と言いたいですね。
せんだ・みのる 奈良県立図書情報館館長、国際日本文化研究センター名誉教授。専攻は歴史地理学。著書に『古代日本の歴史地理学的研究』『邪馬台国と古代日本』『古代日本の王権空間』 『伊勢神宮―東アジアのアマテラス―』『古代天皇誌』など多数。
文/植月ひろみ 写真/植月ひろみ、(c)wavebreak3、(c)WavebreakmediaMicro、(c)yossarian6 / fotolia
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