高まる記憶力、注意力、思考能力……
立命館大学ゲーム研究センターはゲーム分野における日本で唯一の学術機関。ゲームが人間に与える影響や教育への応用の可能性などを総合的に研究している。そのなかで、吉田先生は感性学を専門領域にデジタルゲームが人間の知覚に与える影響について研究している。
「デジタルゲームは子どもに悪い影響を与えるという意見がありますが、じつは良い影響もたくさんあるんです」と語る吉田先生。デジタルゲームが子どもに与える最大のメリットは、デジタル社会への適応能力だ。具体的には、認知科学の研究結果から導き出された3つの理由が挙げられる。
(1)認知的技能の向上…記憶力や注意力、予期能力が高まり、物事を順序立てて解決する思考能力が磨かれる。
(2)視覚的認知能力の向上…3Dや奥行きを理解する能力、アイコンなど記号の意味を理解する能力、複数のものを同時に追う能力が高まる。
(3)創発的認知の促進…ゲームはプレイしながらルールを覚え、目的を考えて、最善の方法を導きだすもの。また、裏ワザなど本来の目的以外の楽しみを見出すなど、失敗しながら段階的に学習する能力が促進される
デジタルゲームの直感的で分かりやすい操作性は人間工学の観点からも注目される。たとえば、パソコンのOSが開発・洗練される過程では、ゲーム機やゲームソフトのデザインが大いに参照されたという。吉田先生は言う。
「画面を読み取る、アイコンを理解するとか、デジタルゲームで経験したものがゲーム以外のメディア経験のベースを作っているはずです」(吉田先生、以下「」同)。
デジタル社会に必要な情報処理能力を高めるという点においては、ゲームに費やす時間は無駄とは言えない。それにしてもなぜ人間はデジタルゲームにはまるのだろうか。
デジタルゲームがアニメ・漫画などと異なる3つのポイント
吉田先生の専門である感性学とは、哲学をベースに、人間の記憶や考え方を分析する認知科学、人間の体と機械をどう対応させるかを考える工学の観点からも含めて研究するというもの。
「今でこそ3D技術が当たり前のように使われていますが、1970~1980年代のデジタルゲームは画面を立体的に見せるために視覚的イリュージョンを利用してきました。イリュージョンは錯覚とか幻覚とか “間違っている” という意味でとらえがちですが、そうではなくて、人間の知覚とかモノを見るときの癖や傾向を利用しているという意味。そういった創意工夫こそがゲームの本質であり、感性学の研究対象になるのです」
感性学の観点から、ヒトがゲームにハマる要因を分析すると、アニメや漫画といった他のメディアとは異なる、次の3つの点が挙げられるという。
(1)非言語性…インベーダーゲームのように、多くのゲームはグラフィックスやサウンドを多用して、言葉や説明書が無くても画面を見ればプレイが可能。
(2)双方向性…情報を受け取るだけではなく、プレイヤーに思考や推論、判断を求め、手や目や耳を使うことでゲームの世界へ強く没入させる。
(3)面白さ…ゲームは教育目的ではなく、嗜好品としてつくられたもの。だから、初心者でも楽しめる工夫、飽きさせない工夫が凝らされている
特に(2)で挙げた視覚や聴覚と同時に、コントローラーのボタンを押したり、体を動かしたり、触覚を連動させて楽しむゲーム構造が一度ハマると抜け出せない中毒性を生む、と考えられている。ゲームに熱中したことがある人なら誰もが共感できるのではないだろうか。
◆取材講座:デジタルゲームの感性学-イリュージョンと没入(立命館土曜講座第3204回)
文・写真(講座風景)/福山嵩朗