あの超有名肖像の顔が原寸に。頬ずりも可能

【連載】国宝の見方が変わる「伝源頼朝像」

源頼朝と聞いてイメージするのが、長い間歴史教科書に載っていた、あの端正な肖像、国宝「伝源頼朝像」(神護寺蔵)である。ところが近年、この肖像は源頼朝ではないとされ、教科書から姿を消した。日本の肖像画の最高峰とも謳われるこの絵には、このほかにもいくつかの謎がある。

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『週刊ニッポンの国宝100』第4号の「国宝原寸美術館」より

源頼朝と聞いてイメージするのが、長い間歴史教科書に載っていた、あの端正な肖像、国宝「伝源頼朝像」(神護寺蔵)である。ところが近年、この肖像は源頼朝ではないとされ、教科書から姿を消した。日本の肖像画の最高峰とも謳われるこの絵には、このほかにもいくつかの謎がある。

誰を描いたものか、誰が描いたものか

「伝源頼朝像」は「伝平重盛像」「伝藤原光能像」とともに、京都・神護寺に「神護寺三像」として所蔵される、絹本着色による三幅の肖像画の一つである。描かれたのは12─14世紀とされている。

1995年、この三幅を奉納した際の「足利直義願文」にある記述から、「伝源頼朝像」は頼朝の肖像ではなく足利直義(尊氏の弟)を描いたものだとする新説が発表された。ちなみに新説では、ほかの二つも、足利尊氏とその息子の義詮(よしあきら)だという。この絵が鎌倉期のものなのか、南北朝期のものなのか、未だに論争は決着していない。

しかし、この精緻で写実的、技巧を凝らした「伝源頼朝像」が、日本の肖像画の最高傑作であることは疑いもない。ちなみに、京都国立博物館でこの秋開催される、開館120周年記念特別展覧会「国宝」展でも、10月31日─11月26日に公開される。ぜひその目で、そのすばらしさ、大きさに触れてほしい。

これは大きい。等身大で描かれた坐像

そう、この「伝源頼朝像」を一目見て感じること、それは「大きい!」ということだ。

どれくらい大きいかというと、タテ約143センチ、ヨコ約112センチの絵絹に、ほぼ等身大で描かれている。これだけ大きいと、通常は何枚かの絵絹を継ぎ足して使うのだが、1枚の大きな絵絹が使われている。世俗の人物をこれほど大きく描いたケースは先例がないという。

次に目がいくのは、折り紙のような装束だろう。これは平安末期から鎌倉時代にかけて流行した「強装束(こわしょうぞく)」と呼ばれるもので、袍(ほう)を糊付けして固めたもの。ものすごく糊のきいた浴衣やワイシャツを想像してみるとわかりやすいだろう。

この直線的な強装束をまとった人物が、四角い画面の中に三角形の構図で座っている。このシンプルで幾何学的な構図が観る者に強いな印象を与える。

シャープな切れ長の目、ふっくら色白頬

もうひとつ触れておかなければならないのは、涼やかなまなざしをもつリアルな相貌だろう。

とくにその目の美しさ。何本もの墨の細線を糸のように紡いで一本の線を作り出し、それによって生じる微妙な濃淡によって立体的な墨線を生み出しているのだ。また、鼻梁や顎などには微妙な陰影をつける淡い主のくま取りが施されている。髪の毛やひげなども糸のように繊細に描かれ、これまた細線で描かれたまつ毛が、ただでさえ切れ長の目をいっそうシャープに見せている。

『週刊ニッポンの国宝100』第4号「伝源頼朝像・曜変天目」では、この相貌を原寸で見られる。ガラスケースには顔をくっつけられないが(くっつけてもここまでは大きく見えない)、誌面には顔をくっつけて見られる。イケメン武将に頬ずりすることも可能だ。

『週刊ニッポンの国宝』画像をクリックすると、専用サイトが表示されます

◆「開館120周年記念特別展覧会 国宝」

場所:京都国立博物館(京都・東山)
開催期間:10月3日(火)~ 11月26日(日)
9時30分~17時(入館は閉館の30分前まで。ただし金曜・土曜は21:00まで開館)
休館日:月曜日(ただし10月9日(月)は開館、10日(火)休館)
料金:一般 1500円
問い合わせ先:075-525-2473(テレホンサービス)

文/まなナビ編集室

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