「2階」「階下」と呼び合う人々
「『ダウントン・アビー』からみる〈戦間期〉英国」と名づけられた早稲田大学エクステンションセンター講座は、まさにダウントン・アビーを参考にイギリス社会を学ぼうという、アカデミズムとエンターテインメントが合体したような講座だ。講師の松園先生は語る。
「ダウントン・アビーはイギリス社会の最高の教科書なんです。イギリス社会を読み解くには、次の3つのポイントが鍵になります。
(1)階級の問題
(2)宗教の問題
(3)ネイション(民族)の問題
この3つは現代のイギリス社会にも通じる問題です。しかしそこをドラマの中にしっかりと描いているからこそ、貴族というある意味浮世離れした人々をテーマにしながら抜群のリアリティーがある。だからイギリスはもちろんのこと、日本を含む世界中でヒットしたのです」
『ダウントン・アビー』にはしょっちゅう、「階下はどうなってるの?」「まったく2階の連中は」といったフレーズが出てくる。これが(1)の階級の問題だ。
職業を持っている時点で上流ではない
イギリスには大きく分けて3つの階級がある。上流階級(UPPER CLASS)、中流階級(中産階級とも。MIDDLE CLASS)、労働者階級(WORKING CLASS)だ。このうち上流階級はわたしたちがイメージするよりもっと限定的で、貴族クラスをさす。『ダウントン・アビー』ではグランサム伯爵家の人たちやその交流先である貴族階級の人たちがここに属する。グランサム伯爵の長女メアリーの夫、マシュー・クローリーは弁護士だが、医師の妻であった母イザベルともども、上流ではなく中流階級だ。どんな知的労働に従事していようと、“職業(job)”を持っていることそれ自体が、上流ではない証なのだ。
使用人たちは労働者階級に位置する。当時の英国貴族のカントリーハウスは、1階が応接間などの公的な空間、2階から上が貴族の私的空間、地下がキッチンや使用人の控室などとなっていた。使用人たちの口からはしばしば「一生、使用人のままなんだ」という言葉が出るが、それほどまでに階級は人々を支配した。