『ダウントン』あの登場一家のモデルはロスチャイルド家

松園伸早稲田大学教授「イギリス貴族『ダウントンアビー』からみる〈戦間期〉英国」@早稲田大学エクステンションセンター

NHK総合で2014年から放送が始まり、いま最終盤に突入中の海外ドラマ『ダウントン・アビー』。舞台は1912~1925年のイギリス・ヨークシャーのダウントン村にある貴族の屋敷・ダウントン・アビー。登場する華やかな英国貴族の文化や生活には驚くことばかりだが、なかでもわかりにくいのが、その恋愛観、結婚観である。

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ダウントン・アビーのロケ地、ハイクレア城

ダウントン・アビーのロケ地、ハイクレア城

NHK総合で2014年から放送が始まり、いま最終盤に突入中の海外ドラマ『ダウントン・アビー』。舞台は1912~1925年のイギリス・ヨークシャーのダウントン村にある貴族の屋敷・ダウントン・アビー。登場する華やかな英国貴族の文化や生活には驚くことばかりだが、なかでもわかりにくいのが、その恋愛観、結婚観である。

結婚は親が行なうものだったが

早稲田大学教授の松園伸先生は「イギリス貴族『ダウントン・アビー』からみる〈戦間期〉英国」講座(早稲田大学エクステンションセンター)で、イギリス社会を読み解く3つのポイントを、 (1)階級 (2)宗教 (3)ネイション(民族)だと指摘する(詳しくは前の記事「『ダウントン・アビー』に学ぶ英国の階級・宗教・民族」を参照)。そして、この3つが複雑にかかわりあう人生の一大事が、“恋愛”と“結婚”である。

当時のイギリスは、上流階級、中流階級、労働者階級が明確に分かれており、『ダウントン・アビー』ではしょっちゅう、身分違いの恋に悩む男女が出てくる。そんなに悩むくらいなら最初からお見合いでもすればよいのに、と思ってしまうが、そのとおり、当時の貴族の婚活は、親が行うものだった。その舞台となるのが、ロンドンのタウンハウスである

英国の世襲貴族は地方領主のような存在だったから、ダウントン・アビーのような“カントリー・ハウス”(貴族の邸宅)を持ち、所領を経営していた。しかし同時に貴族院議員でもあり、その務めも果たさなければならなかった。そのため、貴族たちは議会のあるロンドンに“タウンハウス”を持ち、一族郎党(もちろん使用人も)で滞在した。

ロンドンは政治の中心であると同時に、社交界の中心でもあった。子供や孫を社交界にデビューさせ、結婚をまとめるためにも、ロンドン滞在は大事な行事だった。いわば親がかり、一族がかりで婚活をしたのである。松園先生によると、裕福な貴族は、カントリーハウスやタウンハウスのほかに、暖かいポーツマスや飲泉で有名なバースなどのリゾート地に別荘を持つこともあったというから、そういう場ではタウンハウスとは一味違ったロマンスがあったにちがいない。

しかしどんなにお膳立てをしても、子供は親の想定外の恋人を選ぶものだ。『ダウントン・アビー』ではグランサム伯爵ロバートの三女シビルは、労働者階級の運転手ブランソンと恋人になる。ブランソンはイングランドを激しく憎むアイルランドの出身で、しかもカトリック教徒。階級も宗教もネイションも違う。二人は困難を乗り越え結婚するが、出産時に死亡したシビルの愛娘の洗礼式をめぐって、カトリックかイギリス国教会かでひと悶着が起こる。

そして最も複雑なのが、スコットランドのフリントシャー侯爵の令嬢ローズの結婚をめぐる一幕(シーズン5)である。

イギリス国教会信徒とユダヤ教信徒が結婚するには

ローズは、ロバートの旧友でスコットランドに領地を持つフリントシャー侯爵と、ロバートの従妹スーザンとの間に生まれた末娘。フリントシャー侯爵夫妻がインドに赴任するに際し、グランサム伯爵邸に居候させることとなった。

ローズの恋人がアティカス・アルドリッジだ。アティカスの両親・シンダービー卿夫妻は、もちろんイギリス国籍だが、ユダヤ人でユダヤ教徒。対してフリントシャー侯爵はスコットランド人でクリスチャン。シンダービー卿は非ユダヤ教徒のローズがシナゴーグ(ユダヤ教の礼拝堂)で結婚式を挙げることに反対し、フリントシャー侯爵夫人や教会もユダヤ教徒との結婚式を教会で挙げること(教会婚)を許さない。そこで若い二人は“民事婚”を選ぶのである。

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